政策を先送りすれば選択肢は減っていく--『日本経済史』を書いた杉山伸也氏(慶応義塾大学経済学部教授)に聞く

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──通説を見直すべきですか。

たとえば先述の綿紡績がうまくいったのは政府が力を入れたからだという見方がある。しかし明治政府は財政基盤がさほど強くなく、そんな資金的な余裕はない。むしろ相手国の要求で輸入関税を低くしたことが、日本の織物業にとってプラスになった。輸入綿糸を使って新たに成長していく産地がけっこう出てくる。

──松方デフレについても見方がユニークです。

松方についての議論はほとんどが国内に限定されている。実は国際経済と調整していたところが重要な意味を持っている。今までの日本の対外関係史は、外国貿易は開港止まりで議論の対象から外れ、その後は空白。日清戦争関連で急に出てくる。国外の枠組みを押さえずには、国内の議論もできないはずだ。

──明治期は元勲が経済理論を知っていたかのようですね。

ほう、と思わせるのは、大久保利通や大隈重信が外資を導入せず、財政とバランスさせようとしたことだ。今の経済理論でいえば、貯蓄投資バランスを経験的に知っていたのかと思わせる。十分理にかなっている。経験から学んだのだろうか。

──国際収支を気にした……。

国家的な独立維持や欧米諸国との対等関係は、経済的な実力からすればかなりの背伸び。一等国になるためには経済のロジックだけでなく、軍事力も必要だ。軍備は国内では生産できず、輸入に頼る。貿易収支は当然輸入超過になっていく。それでは金本位制維持の金準備は不可能に近い。だから、第1次世界大戦の前に日本はデフォルトの危機に瀕した。かろうじて救ってくれたのがその大戦だった。

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