がんの9割は正しい知識があれば予防できる 遺伝、食事、運動、検診にまつわる誤解の数々

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一方で、すい臓ガン、肝臓ガンなど、死亡数がある程度多いのに選ばれていないものには理由がある。実はこれらは、正確に判断できる検査法が確立されていない、早期発見をしても生存期間の延長が難しい、といった理由で導入されていないのだ。

つまり、人間ドックなどの任意型検診でしか受けられない種類のガンは、その検診の意義がはっきりと認められていないともいえよう。反対にいえば、対策型検診で対応している種類のガンは、しっかりとその検診の意義が確立されていて、早期発見・治療で治るということ。任意型検診を受けることは、決して悪いことではないが、対策型検診をしっかりと受けておけば、予防の観点では十分といえる。

「医療」の側面でいえば、「ガンは治療すべきか、すべきでないか」といった議論が話題となっている。私は、「ステージIIIまでについては基本的に手術することを勧めるが、ステージIV(末期)のがん、そして年齢によっては、治療しないことも必要」というスタンスだ。

ステージIVは、ガンが遠隔転移している状態。その場合、ガン細胞がその臓器だけに転移しているということは、まずない。転移が一カ所でも見つかれば、体中に転移していることを意味する。ガンのある臓器を手術で取り除いたとしても根治は難しい。

「どれだけ長く生きられるか」という観点で考えれば、手術や抗ガン剤治療で体に負担をかけず、ガンと闘わない選択肢も必要だろう。とくに高齢になればなるほど、手術のリスクは高まる。手術中に亡くなることはもちろん、術後の合併症や後遺症に悩まされることも覚悟しなければならない。ある程度の高齢であれば、「残りの人生を楽しむためにどのようにがんと共存していくか」と考える選択肢も持つべきなのだ。

ガンで死ぬのは不幸せか?

「最期はガンで死にたいね」と医者仲間で話したことがある。ガンでいいことは、死ぬまで意識がハッキリしていて、自分を失うことがないことだ。

私個人の意見では、認知症が進行して家族や自分さえ誰かわからなくなって死ぬよりも、別れを告げる余裕さえない突然死よりも、ガンと宣告されて死ぬほうが、よい最期を迎えられると考えている。ほとんど誰しもが、何かの病気で亡くなるわけなので、「ガン」になった場合も悲観せず、それをどう捉えるかが大切だ。

とは言っても、若くしてガンで亡くなるのは、やはりもったいない。50代、60代はもちろん、70代でもまだまだ楽しめることはたくさんある。まだまだ人生を楽しみたいと思うのであれば、やはり予防と対策が大切。極端な情報や思い込みを排除し、正しい知識・情報で早期発見・治療に努めてほしい。

秋津 壽男 日本内科学会認定総合内科専門医/秋津医院 院長

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あきつ としお / Akitsu Toshio

1954年和歌山県生まれ。77年大阪大学工学部で酒造りの基礎を学び卒業。社会人を経て再び大学受験をし、和歌山県立医科大学医学部に入学。86年卒業後、同大学循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコー等を学ぶ。東京労災病院等を経て、98年に東京都品川区の商店街・戸越銀座に秋津医院を開業し、地元密着の診療を行う

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