ケータイ値下げは大山鳴動して議論尻すぼみ そもそも首相発言の根拠は誤りだった

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そもそも通信料金は、自由化されて久しい。首相といえども、単に「下げろ」と、うかつなことは言えない。「通信料金に首相が口を挟むのは本来おかしい」(IIJの鈴木幸一会長)からだ。

また、総務省は大手からインフラを借りて通信サービスを提供する、「MVNO」の育成を主導してきた。現在、IIJなどのMVNOは、安い料金を武器に契約数を積み上げている。大手が料金を引き下げれば、MVNOの成長を妨げる可能性もある。これまでの流れに逆行する施策では、行政の連続性を保てない。

そのため、「歪んだ競争を是正する」とし、業務改善命令をちらつかせ、ガイドラインを示すくらいしか手はない。高市総務相が目指す法改正はハードルが高そうだ。

結局は地味な結論?

高市総務相はユーザーの不公平感などを主張。ただし、大臣はMVNOのサービスをよく知らず、利用した経験もないという(撮影:大澤誠)

タスクフォースは11月26日の第4回会合で論点整理を終え、総務省は12月中に何らかの指針を発表する。内容は未定だが、競争の健全化を理由に過度のキャッシュバックを抑えたり、販売奨励金に上限を設けたりする見通しだ。

販売奨励金を抑えることで、長期ユーザーやライトユーザーの料金プランを下げる余地が生まれる。実質タダだった乗り換えユーザー向けの端末料金も、通常の機種変更と負担額が近くなって、不公平感は減るだろう。

ただ、こうした指針を総務省が出した場合、思わぬ副作用が生じかねない。まず販売競争が沈静化し、市場全体が冷え込むおそれがある。逆に、機種変更と乗り換えの端末料金がともに一段と下がり、さらに歪んだ競争に発展する公算もある。

首相の一声で始まった今回の値下げ議論だが、当初の威勢のよさは影を潜め、地味な結論に終わりそうだ。

「週刊東洋経済」2015年12月5日号<11月30日発売>「核心リポート03」を転載)

山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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