マツキヨ、爆買いで死守した業界トップの座 再成長のカギは化粧品と地方のテコ入れ

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>新松戸駅前店では、店内で、管理栄養士によるサプリの処方や健康チェックができる(撮影:今井康一)

小売り業界では数少ない成長組のドラッグストアだが、医薬品販売には規制緩和の嵐が吹き荒れ、ネット通販やコンビニなど競合相手はもはや同業にとどまらない。熾烈な出店競争やM&Aを繰り広げ、各社の商圏は小さくなる一方だ。マツキヨは売上高ではトップを死守したものの、営業利益率ではツルハやサンドラッグの後塵を拝する。時価総額でも業界4位に過ぎない。そうした中、同社がこれから差別化できるポイントは、二つある。

一つは、外部環境に左右されにくく、安定的に高い採算が見込める化粧品の強化だ。マツキヨの場合、売上高全体に占める化粧品の比率は4割程度と同業他社と比べ高い。化粧品市場は、一時のインバウンド需要を除けば、長期的な成長は見込めない。だがその反面、市場が急に縮小することも考えにくく、安定的に高い採算を獲得できる、手堅い商材と言えるだろう。

7月にリニューアルオープンした、「新松戸駅前店」(千葉県)は、その試金石となるかもしれない。店内には美容スタッフのいるカウンターが設置され、ネイルサロンまである。ドラッグストアの雑多なイメージとは異なり、こぎれいで広い店内も魅力。若い世代にアプローチをしながら、一方で健康チェックを受けられるなど、高齢化社会のニーズにも応えていく。同店での実験の成果を見つつ、今後は、美容と健康に特化した新スタイルの店舗を、5年間で50店程度に増加させていく計画だ。

バラバラだった地方子会社を強化

そしてもう一つが、地方に点在する子会社の採算向上である。今まで、「子会社の経営には極力、口を出さず、独自性を重視していた」(野村證券の成清アナリスト)。それゆえ、仕入れや商品構成で統合効果が出にくく、地方の子会社の低迷が長く足を引っ張っていた。しかし、現在は本体のマツモトキヨシを成功例とした子会社経営のテコ入れを行っており、上期の段階では「業績は回復してきている」(松本社長)という。

ただし、地方で強い競合他社は、単価の安い食品の構成比を高めて集客し、一つの地域に集中出店するドミナント化を推し進めている例が多い。対する「マツキヨ流」はあくまで、化粧品と医薬品の特化にこだわる。食品の安売りで顧客を釣るようなことはせず、どこまで集客できるかが課題となってこよう。

1996年に始めたテレビCMによって、日本全国にドラッグストアを知らしめたマツキヨ。いずれ売上高ではトップでなくなったとき、どこに自らの立ち位置を求めていくのか。これまで試してきた数々の実験に対し、早々にもその成果が問われてきそうだ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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