ホンダは、どうして「タイプR」にこだわるのか FF最速!新型シビック タイプRの実力

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一方、さすがに5代目シビック タイプRのように300馬力オーバーのFF車はあまり記憶にないが、最近では250馬力程度のパワーを出しているFF車はいくつかある。それが可能となったのは、シャシーのセッティングの進化による。電子制御により姿勢変化を抑え、フロントタイヤの空転を抑えているのだ。

5代目シビック タイプRを実際にドライブしても、FFでこんな走りが可能なのかと感心せずにいられないほどのトラクション(駆動力)の高さだった。また、フロントサスペンションを複雑な機構を採用して、タイヤの接地性を高めており、普通はコーナー立ち上がりでアクセルを開けると外側に膨らむ、いわゆるアンダーステアになりそうな状況でも、この車は切ったとおりにグイグイと曲がっていく。

実は前述のルノー メガーヌRSも似たような乗り味を持っていた。FFで究極的に速さを追求すると、同じような方向性になるということだろう。

エンジンが活かせるのは高性能なシャシーがあるから

完成度の高いシャシーがあるからこそ、エンジン性能が活かせる。ターボエンジンは、排ガスを再利用して出力を高めるため、アクセルの踏み込みに対してエンジンパワーの立ち上がりが遅れる、いわゆる「ターボラグ」がある。ただ、5代目シビック タイプRのエンジンはそのターボラグをほとんど感じさせず、圧倒的にパワフルで、7000rpmまで痛快に吹け上がる。「心昂ぶるブッチギリの走り」をコンセプトとしていて、歴代シビック タイプRとは次元が違う速さである。

派手なエアロパーツも、すべて機能を持っている。車速を増すほどにタイヤが路面に押し付けられて、安定感が増していく。一方で、最高速度を高めるためには、もちろんエンジンパワーも必要だが、空気抵抗を極力減らすことも重要だ。エアロパーツには、その両面のバランスが求められる。実際に筆者もドライブしたところ、FFでここまでの車をつくれたことには驚き、大いに感銘を受けた。なるほど、これならFF車の量産車最速になれるわけだと納得させられた。

5代目シビック タイプRは、こうしたホットハッチの人気が高い欧州市場に向けて、ホンダがシビックをベースに手がけ、せっかくなので、やるからには何らかの形で「頂点」を目指した、という車だ。

ホンダというメーカーは、思えば、当時は小さなメーカーだった1960年代に、F1という大舞台に挑んだときから、何かに挑戦せずにはいられない企業体質があるのだろう。そしてタイプRというのは、そんなホンダを象徴する存在として、今後も連綿と続いていくはずだ。

シビックについては、すでに次期型の姿も明らかになってきた。次期型にもタイプRがあるのかどうかは今のところさだかではないが、おそらくホンダが黙っていることはないだろう。また、小型オープンスポーツカーの「S660」や来年発売予定の新型NSXにおいても、タイプRの設定を期待せずにいられない。

岡本 幸一郎 モータージャーナリスト

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おかもと こういちろう / Koichiro Okamoto

1968年、富山県生まれ。大学卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の編集記者を経て、フリーランスのモータージャーナリストとして独立。軽自動車から高級輸入車まで、国内外のカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでも25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに有益な情報を発信することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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