ロスト近代 資本主義の新たな駆動因 橋本 努著 ~現代の歴史的位相を大局的につかむ

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しかしそうだからといって、日本の未来を悲観するのは性急である、と著者は言う。

本書が分析し提示するのは、「未来」の喪失感覚が広がるロスト近代の「駆動因」となりうるものである。そこでカギとなるのは「未来」への「寄与」(贈与)である。ロスト近代の福祉国家モデルとしては、女性の雇用継続と将来世代への支援策に重点をおいた「北欧型の新自由主義」の可能性が検討される。ロスト近代の資本主義においては、環境問題への対応とエコロジカルな生活様式の企て(グリーン・イノベーション、自然の模倣=バイオミミクリー、環境市民など)が重要になることが示唆される。

ロスト近代社会の駆動因について考えることは、近代でもポスト近代でもない、ロスト近代に生きる私たちがいったい何を根源的に求めているかを、鋭く深く問うことでもある。一人ひとりが、そして私たちの社会が、新たな「潜在的可能性」をひらいてゆくための手がかりを、本書は示している。

はしもと・つとむ
北海道大学大学院経済学研究科教授。専門は経済思想、政治哲学、社会理論。1967年生まれ。横浜国立大学経済学部卒業。東京大学大学院総合文化研究科課程博士号取得。著書に『自由の社会学』『経済倫理=あなたは、なに主義?』『帝国の条件』。

弘文堂 2310円 416ページ

  

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