(第52回)時価総額は巨大だが問題多い中国の銀行

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融資平台の総数は、10年末で6576社に上った(1万社との報道もある)。融資平台向け融資残高は、08年末の4・3兆元から10年6月末には7・7兆元に達した。わずか2年で2倍近くに膨張したわけだ。11年6月に中国審計署(日本の会計検査院に相当)は、初めて地方政府の債務状況についての監査報告を発表し、10年末現在の地方政府が抱える債務総額が10・7兆元を超えることを明らかにした。これはGDP比で27%にあたる。地方政府の債務は7割以上が銀行借入であるため、債務償還が履行されないと、融資している銀行が不良債権を抱え込む。

4大国有銀行も融資平台向け債権を保有している。融資残高は、ICBCで7000億元程度、その他の大型商業銀行で4000億~6000億元程度と見られている。

ただし、かつての不良債権に比べると、規模は小さいとも言われる。中国銀行業監督管理委員会(CBRC)の先頃の発表によると、中国の銀行の3月末での不良債権比率は、0・9%であり、昨年末の1%から低下した。しかし、不良債権額は、昨年の4279億元から4383億元に増加した。また、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービス(MCO)は、中国政府は、地方政府に影響が及ぶ不良債権の規模を5000億ドル(約39兆円)ほど過小評価しているという。

金融危機後、銀行の株価が下がっている背景には、こうした事情がある。11年に、5大銀行の利益は37%増加したにもかかわらず、株価は11年のピークから25%低下した。今年4月、ゴールドマン・サックスは、損失をこうむって株式を売却した。

日本の銀行が中国事業を展開するにあたっても、中国の金融業界がこのような問題を抱えていることを十分認識すべきだろう。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年6月23日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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