旭化成建材の不正は決算書にも滲み出ていた 不祥事は「赤字脱出が至上命題」の時に起こる

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最初にデータの偽装が見つかった「パークシティLaLa横浜」は、2005年に着工され、2007年に竣工したマンションです。このマンションが着工される2年前、2003年度における旭化成の事業種別の売上高と営業損益を見ると、建材事業では21億円の営業赤字が出ていました。

それに対し、ケミカル、ホームズ、ファーマ、せんい、エレクトロニクス、ライフ&リビング、サービス・エンジニアリング等の残る7事業は、いずれも黒字。旭化成の事業のうち、この年度に営業赤字を出していたのは建材事業だけです。その1年前の2002年度も建材事業は営業赤字でした。

親会社である旭化成から明確なプレッシャーがなかったにしても、当の旭化成建材では、「グループの主要事業で赤字経営をしているのは自分たちだけ。いち早く黒字化しなければ」という意識が強く持たれていた可能性があります。

2004年度にどうやって黒字浮上したのか

その後、建材事業は、どうなったでしょうか。実は2004年度以降黒字化し、26億円、38億円、50億円と、毎年、着実に儲けを出すようになっていきます。問題のマンションが着工されたのは、2005年度なので、当時の旭化成建材は、それまでの赤字経営から脱却し、黒字化した直後だったということになります。

ここで注目していただきたいのは、事業が黒字化していった間でも、売上高にはほとんど変化が見られなかった、というところです。赤字だった2002年度と2003年度の売上高は、それぞれ727億円、718億円でした。しかし、黒字化した後でも、712億円、681億円、733億円と、売上高は決して増えていないのです。

では、旭化成はいかにして、売上高を増やさずに、建材事業を黒字化したのでしょうか。

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答えは簡単です。入ってくるお金が増えないのであれば、出ていくお金を減らせばいいのです。――つまり、コストダウンです。この数字からわかるのは、この時期、旭化成建材が赤字脱却のために、かなりの「合理化努力」をしていた、ということなのです。

合理化というのは、無駄を省く、ということです。たとえば、それまで行っていた不必要な作業を省略したり、材料費を削ったり、または作業時間を短縮したりすることが、これに当たります。

旭化成建材は、そのような企業努力によって、売上高を増やさずに赤字経営を克服していきました。しかし、こうした切羽詰まった状況の中では、少しでも早く、少しでも安く、という会社全体の意識が、大きなプレッシャーとなって現場にのしかかってくることがあるのです。

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