ピケティ絶賛!格差解消の切り札はこれだ 平等な社会に向けた現実的なビジョン

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イギリスにおける半世紀にわたる累進課税方針との決別は、サッチャリズムの決定的な成果だった(ちょうどアメリカの最高税率を28パーセントに引き下げた1986年税制改革法案が、レーガニズムの決定的な成果だったように)。トニー・ブレア率いる新しい労働党の政権下でも、それが真剣に疑問視されることはなかった(アトキンソンは、ブレアにことさらよい感情は抱いていない)。これはレーガン減税が、クリントン政権やオバマ政権期に民主党に疑問視されなかったのと同じだ。また、新生トーリー党政権下で、この税率が真面目に疑問視されることも期待できない。

もう一つ象徴的な逸話があり、これはアトキンソンの生徒や同僚の多くを驚かせるかもしれない。その1988年の歴史的投票に際し、当のアトキンソンは下院にいて、シャドウキャビネット室でパソコンとマイクロ税シミュレータを忙しく叩いていたというのだ。同僚ホリー・サザーランドの助けを借りて、彼は財務大臣が演説を終える前に、提出された予算案を計算し終えた――科学研究とコンピュータコードが、新しい形の参加型民主主義を生み出せるというひねくれた証拠というべきか。

財政的累進性と国民保険をめぐる戦い

もっと累進的な税構造に戻るという発想は、明らかにアトキンソンが提示する行動計画の大きな部分を占める。このイギリス人経済学者は、それについて疑問の余地を残さない。トップ所得税率の目をむくような引き下げは、1980年代以来の不平等増大に大きく貢献しているし、社会全体に対してそれに見合うだけの便益はもたらしていない。だから、限界税率は決して50パーセントを超えてはならないなどというタブーは一瞬たりともためらわずに捨て去らねばならない。

アトキンソンは、イギリス所得税の最高税率を、年間所得10万ポンド以上なら55パーセント、20万ポンド以上の所得なら65パーセントにするという、きわめて広範な改革を提案し、さらに国民保険への拠出金上限を引き上げろと言う。

これが実現すれば、イギリスの社会保障と所得再分配制度の大幅拡充の財源となる。特に家族手当の大幅な増額(倍増、あるいは提案されている変種の一つだと実に4倍)、資源の少ない人々のための退職手当や失業手当の増額だ(第一子の家族手当は、これにより週20ポンドから40ポンドに上がり、変種の一つだと90ポンドに上がる。同時に、これらの手当は課税対象となる)。 アトキンソンはこうした手段や改革シナリオに一連の変種を提示しつつ、条件つきの資源移転ではなく、ユニバーサル社会セーフティネット政策(つまり誰にでも開かれている)への回帰を可能にする各種手段をも支持する。

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