人民元の変動を認めるメリットは依然大きい--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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IMFはもっともな見通しを示している。世界経済が長期的に正常化するにつれて、再び中国の経常黒字は、世界のGDPの約0・5%を占めていた2~3年前並みに世界的不均衡の一端を担う、という。

これらすべてのことは、為替相場と経常収支の間の関係が単純でないことを物語っている。たとえば、資本の流れ自体によって、貿易とはまったく別に為替相場に強い圧力がかかることがある。

中国は非常に強い資本規制を行っているが、水も漏らさぬといったものではない。先進諸国の経済回復は緩やかなものになると予想され、必然的に中国はより魅力的な投資先の一つとなった。ただし同国もいつかは経済の落ち込みと金融危機に見舞われるリスクがかなりある。

より柔軟な為替相場制度に中国が移行するべきだとする強い根拠は、経済的、政治的、その他いかなる種類の危機においても、為替相場は重要な安定化装置をもたらすということだ。

目先、人民元が上昇しても、貿易に対する影響はおそらく米国当局が望み、中国当局が恐れるよりも、ずっと小さいだろう。

為替相場の転嫁に関する複数の研究によれば、米消費者はわずかのコスト変動を目にするにすぎないことが示唆されている。

為替相場と経常収支を関連づけるためにしばしば使われてきた単純な論理は弱いものだ。しかし、より広範な金融市場自由化の一環として、より柔軟な為替相場制度に中国が移行するべきだとする議論には、依然として力がある。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済2012年6月16日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。Photo:Yongxinge CC3.0 BY-SA
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