【産業天気図・非鉄金属】空模様悪化で非製錬シフト進めるが、企業ごとに明暗分かれる

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空前の市況高に沸いた2006年度から一転。07年度後半から08年度前半にかけて、非鉄金属各社が置かれた環境は一層厳しさを増している。
 環境悪化の一因は、米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題に起因する投機資金の流出だ。これまでは中国など新興国で金属需要は増加する一方だが、鉱山側の生産増強は需要増のペースに追いつけない状況が続いてきた。こうした需給のタイト感を材料に、世界各地のリスクマネーが非鉄市況をつり上げてきたのが06年の状況だった。ところが、今年8月に米国でサブプライムローンの焦げ付きが顕在化すると、非鉄市況は一気に軟化。特に、ニッケルは6月に国際指標のLME(ロンドン金属取引所)で相場操縦に対する規制策が導入され価格が急落していた矢先だったため、5月のピーク時(1トン当たり5万4000ドル)から8月には半値以下の2万5000ドルまで落ち込んだ。国内で唯一、電気ニッケルを製錬している住友金属鉱山<5713>は、07年度前半まではニッケルの在庫評価益が利益をかさ上げしてきたが、07年度後半は一転して在庫評価損になる可能性も出てきている。
 加えて、日本の非鉄金属メーカーの経営は海外の資源メジャーなどから鉱石を購入して金属に製錬する「買鉱型製錬」が主流だが、川上にあたる鉱山側で寡占化が一層進展。発言力を増したメジャーとの交渉では、鉱石の購入条件は年々悪化している。07年の購入分からは、これまで慣例とされてきたマージン分配制度も廃止され、製錬側の収益は定額の加工賃だけになってしまった。07年度は複数年契約分でマージン分配が残っているが、それも前述のような市況軟化で期待薄となっている。
 こうした状況下、非鉄各社は製錬以外の部門へのシフトを進めている。ただ、非製錬シフトも企業ごとで明暗が分かれているのが現実だ。
 「勝ち組」は、超硬工具や半導体シリコンなどを展開する三菱マテリアル<5711>や、環境リサイクルなどに強みを持つDOWAホールディングス<5714>などの「多角化組」だろう。三菱は07年度からの中期計画でセメントと銅製錬を合わせた「四輪駆動経営」を標榜しており、非鉄各社の中で製錬のウエイトが最も低い。また、DOWAは銅や亜鉛の比率は大きいものの、熱処理や金属加工で相次いでM&Aを実施し、多角化をより一層進めている点が注目される。
 一方で、特定の部門へのシフトを進めてきた三井金属<5706>や古河機械金属<5715>は苦戦が続きそうだ。三井は電子材料、古河は土木機械にそれぞれ注力しているが、ともに海外展開で厳しい状況が続く。特に、三井は液晶用材料で台湾品との価格競争が激化した結果、07年度の中間営業益の見通しを下方修正した。今後も状況好転の兆しは乏しいと見られ、浮上は来期以降になりそうだ。
【猪澤 顕明記者】

(株)東洋経済新報社 四季報オンライン編集部

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