《ミドルのための実践的戦略思考》「規模の経済」で読み解く食品容器メーカーの資材調達担当課長・伊藤の悩み

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《ミドルのための実践的戦略思考》「規模の経済」で読み解く食品容器メーカーの資材調達担当課長・伊藤の悩み

■ストーリー概要:

伊藤は食品容器メーカーであるライフスタイル・パッケージング社(以下、LP社)の資材調達担当課長を務めている。LP社は、ガラス瓶やプラスチック容器、外箱などの容器一般を製造、販売する企業で、伊藤はガラス資材やプラスチック容器に必要な原材料の調達を主な責務としている。

原材料の調達現場において、仕入先との交渉条件は年々厳しくなるばかりだった。原料高騰やその他様々な理由をつけられ、購入価格の引き上げを毎年のように迫られていた。かたや、容器の販売先となる顧客からの値下げ要求も激しかった。化粧品や食品メーカーへの販売機会が多かったが、彼らは値上げに対しては決して首を縦に振らなかった。

無論、ただ手をこまねいたわけではない。いろいろなチャレンジは試みた。一例として、技術開発の側面では、容器あたりの原材料量を減らした新製品も作ったが、顧客からの品質要求を満たせず、当初想定ほどには実績につながらなかった。

これではLP社の利益率は悪くなる一方だ・・・。そんな焦りを背景に、経営陣の伊藤へのプレッシャーも日増しに厳しくなっていった。どうやったら調達価格を下げられるか。伊藤の頭にはそれしかなかった。

そんな矢先、調達先の一つと価格交渉の場面があった。あとはもう泣き落とししかない。伊藤の鬼気迫る思いを察したのだろうか。今回、調達先はこんな打開策を提示してきた。「まぁ、困っているのはお互い様ですからね。倍の量を発注してくれたら、多少は勉強してもいいんですけどね。」

なるほど、確かに小手先の勝負では値下げも長続きはしない。いわゆる規模の経済という正攻法で勝負してみようか・・・。そう考えた伊藤は帰社後、上司である部長にこう掛け合った。「やっぱり規模の経済を効かせないと、交渉には勝てないと思います。値下げの条件は発注量を倍にすることと言われましたが、倍までは無理としても、発注量を増やす方法を考えられないでしょうか。例えば、もうちょっと営業を拡大して販売先を広げることもできますよね。今までは県内だけに営業先を限定していてそれ以上の開拓は行っていませんでしたが、これからは意図的に規模の経済を効かせるためにも顧客層の開拓をしてきましょうよ。また、同業他社で業績的に苦しいところもありますから、買収といったことも将来的には考えられるでしょうし」と述べた。

「ん?規模の経済?伊藤にしては珍しくそれらしい言葉を使うな」「で、それはどんな意味なんだ?」部長は試すような視線で問いかけた。「いや、ですから、大きくなれば交渉力を発揮して安くできるってことですよ。それに大きくなれば工場の稼働率も上がるでしょう。遊んでいる時間が減りますから、コストも安くなりますよね。そうすることにより、利益が上がって、またそれを再投資して規模を拡大していく。そういうサイクルを重ねていくことが、規模の経済っていうことですよね」。しかし部長の反応はつれないものだった。「お前、それは規模の経済をほとんど分かっていないに等しいぞ。もう少し勉強したらどうだ。」

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