ミッドナイト・イン・パリ(Midnight in Paris)--欧州債務危機は、先進国の共通問題《宿輪純一のシネマ経済学》

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本作の中でもそうだが、いつの時代でも、昔がよかったと言う。しかし、確かにヨーロッパはこの1920年代のほうが、より世界の中心であったろう。加えて、ギリシャをはじめとした欧州債務危機に見られるように、ヨーロッパの地盤沈下が続いている(本作の題『Midnight in Paris』もそれを意識している可能性がある)。
 
 ギリシャはユーロ経済圏から見れば2%の規模しかない。しかし、なぜこれほど注目を浴びているのか。それは、南欧を主とした“欧州経済の象徴”だからである。低い経済成長と多額の債務の組み合わせである。
 
 しかし、これはよく見れば、欧州に限ったことではない。米国も、そして特にわが日本こそが同じような体質を持っている。つまり、低い経済成長と多額の債務の組み合わせは「先進国」に共通の状態となっているのだ。この状況を、海外の経済誌などでは、新しい通常の状態ということで「ニュー・ノーマル(New Normal)」と呼んでいる。
 
 つまり、政策にしても、経営にしても、個人の生き方にしても、今後、先進国には高度成長期は再び来ることはない、ということを前提として、考える必要があるということである。

人間は、歴史についても、自分の人生でも、昔はよかったと言うことが多い。確かに先にも述べたが、先進国の経済も先行きがすごくよいわけではない。しかし、どんな状態であれ、せっかくの“これから先の人生”を楽しまなければ、損である。
 
 (誤解なく理解していただきたいが)昔のテレビドラマでのセリフ(病人)を思い出した。「たとえ病気だって楽しまなければ、人生損する」 。筆者もそう思う。毎日精いっぱい生きようと思う。



© 2011 Mediaproducción, S.L.U., Versátil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.


ミッドナイト・イン・パリ
新宿ピカデリー&丸の内ピカデリーほか全国公開中!
配給:ロングライド 公式HP:www.midnightinparis.jp


しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・映画評論家・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングス他に勤務。非常勤講師として、東京大学大学院(3年)、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学(5年)等で教鞭。財務省・経産省・外務省等研究会委員を歴任。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞出版社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA、facebook:junichishukuwa ※本稿の内容はすべて筆者個人の見解に基づくもので、所属する組織のものではありません。

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