新日鉄住金を苦しめる、中国の「出血輸出」 「異常なマージン低下」が日本でも起きている

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だが、事は、そう単純ではない。「普通の資本主義経済の国なら、減産や設備廃棄で調整に向かうところ。ただ中国の場合、雇用維持を前提として政府の援助金などもあり、そのタイミングを計るのは難しい」と、日本鉄鋼連盟の柿木厚司会長は見通す。

中国の高炉・電炉メーカーは800社が乱立する。その大半を占める、CISA非加盟の小規模民営企業が近年、大増産を続けてきた。中国の中央政府は環境規制を絡ませながら、古く非効率な設備の閉鎖を進める姿勢を示している。が、地方政府は雇用や税収の問題から工場閉鎖に後ろ向きで、民営企業の増産を黙認してきたとされる。

中央の指示が伝わりにくいこうした現実や、需給ギャップの大きさを考えると、問題が一朝一夕に片付いて、市況もV字回復に向かうと楽観視はできない。業界では、「中国の供給過剰解消には10年かかる」との見方が定着しつつあり、それを前提に経営を考えざるをえない状況だ。

日本の優位性は不変?

まさに中国発の冬の時代の様相だが、日本の大手はまだマシだ。世界最大手の欧州アルセロール・ミタルや米大手USスチールは、2015年7〜9月期に最終赤字に転落。韓国最大手のポスコも600億円を超す純損失を計上した。大規模な人員削減を実施する大手も増えている。

日本の高炉大手には、円安で主要ユーザーの自動車や電機メーカーの収益が改善した恩恵が大きい。これら主要顧客との相対での契約価格(通称・ひも付き価格)は海外市況とは一線を画する。内需全体も在庫調整にやや遅れはあるものの、五輪特需の建設向けを含めて底堅く、それが業績を下支えしている。

「円安を背景にした競争力拡大や製造設備再編によるコスト削減、高付加価値品中心の技術力など、日本の高炉の優位性に変化はない。とはいえ、中国の構造調整に伴う厳しい環境は、今後数年タームで続くと覚悟すべき」とムーディーズ・ジャパンの秋元崇志アナリストは指摘する。

1980年以降、米国の鉄鋼業が斜陽化した要因として、厳しい環境下で研究開発や設備投資を怠ったことが指摘される。危機を好機につなげるには、製品競争力、人的競争力の強化が欠かせない。

「週刊東洋経済」2015年11月21日号<16日発売>「核心リポート03」を転載)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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