悩んでコケて挑戦して 哲人経営者、最後の勝負(中) 小林喜光 三菱ケミカルホールディングス社長

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CTO就任から2年足らずの06年12月、小林は冨澤に呼び出された。「どうだ。次の社長をやらんか」「わかりました」。即答だった。

社長指名に当たって、誰が適任か、冨澤は一緒に退く副社長級の役員たちに尋ねている。聞かれた大方の役員が「成長戦略なら小林君」。

CTOのときは「複数」だった小林支持が「大方」に上昇した。その理由。記憶媒体事業の実績はもちろんだが、一つは短期決戦の事業再建のみならず、「プロジェクト10/20」で小林の長期・戦略的な視座が確認されたことがあるだろう。もう一つ、表裏のない発言が小林の人間としての「幅」に対する信頼感を高めたことがあるかもしれない。

小林とともに記憶媒体事業を再建した奥川の見るところ、小林の「幅」は「コケたエリート」であることによって育まれた。最初の10年、触媒の研究者としては芽が出なかった。記憶媒体の事業部長としても再建前は赤字続き。さらに悪いことに大赤字のさなか、小林-奥川のコンビは売掛金を十数億円焦げ付かせるという大失態をやらかしている。=敬称略=<(下)に続く>

こばやし・よしみつ
最近の学生の就職観に大いに疑問を感じている。「でっかい企業に就職して生活を安定させたい、という思考でしょう。相変わらず、就職を就社と思っているんじゃないの。就職は会社ではなく事業に就職する、就業なんですよ。新しいものを切り開くチャレンジングな精神が薄れている。こういうことで日本の活力は大丈夫なのかなぁ」。

(武政秀明 撮影:山内信也 =週刊東洋経済2012年5月19日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

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