悩んでコケて挑戦して 哲人経営者、最後の勝負(中) 小林喜光 三菱ケミカルホールディングス社長

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収益が好転すると、いつのまにか独立話は立ち消えになったが、代わりに欲が出た。半年後、小林は奥川に言った。「利益率5%じゃない。倍返しを狙おう」。10%もクリアすると、「おい。3倍返しだ」。結局、利益率は15・3%に上昇した。

1回の失敗でアウト? 絶対、もったいない

記憶媒体部門を高収益事業に変身させた小林は、本社の研究開発担当役員(CTO)に抜擢された。三菱化学社長(当時)の冨澤龍一が小林を指名したのは、複数の役員が「あれは面白い」と推薦したからだ。

本社に呼び戻されて小林が発した第一声を冨澤は今も覚えている。

「本社なんてろくなことをやらないと思っていたら、意外にまじめに議論しているんですな」

CTOとして小林がやったのは「改革」の修正だった。研究開発の現場は混乱していた。00年代前半、前任の役員が主導した「改革」は、若手を大胆に登用する一方、研究成果は1年ごとに出せ、というもの。

研究のための研究ではなく、最後はカネにせねばならない。それは正しい。が、本来、研究は紆余曲折の連続だ。記憶媒体事業を1年で再建したようにはいかないことを、研究畑出身の小林は熟知している。

小林は「プロジェクト10/20」を打ち出した。研究所には10年、20年の時間を与える。ただし、丸投げはしない。「研究テーマってのは、研究所から湧いてくるものじゃないんだよ」。10年後、20年後の社会がどうなっているかを想定し、そこから逆算して、経営のリーダーシップでテーマを選定するスタイルだ。

 

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