日本株は米利上げによる調整リスクが大きい 円高に振れた場合、市場の反応には要注意

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その一方で、現状でこれ以上の円安が必要かといわれると、やや疑問が残る面もある。政府も以前ほどの円安・株安による景気刺激をもくろんでいるようには見えない。安倍首相は「リーマン級の危機が起きない限り、2017年4月からの消費増税は必ずやる」と言明した。これは消費増税見送りを参院選の切り札にしないことを意味する。つまり、財政面からの景気下支えに大きく舵を切ったことになる。

この方策が、今後想定される円高による企業業績の圧迫を下支えるかに注目したい。トヨタの決算でも確認できるように、今期の日本の主要輸出企業の好業績の多くが円安効果によるものである。現在よりも今後の為替レートが円高になれば、その分だけ業績は確実に悪化する。米利上げによりドル円は下落する傾向があることはすでに本欄で解説済みだが、その通りになれば、企業業績には悪影響が出ることは避けられない。そのため、円高に振れた場合の企業業績への影響や市場の反応には注意が必要だ。

一方、12月の米利上げが視野に入っているが、日本株は米利上げ1カ月前には堅調に推移する傾向がある。直近安値からの上昇率は平均で10%にもおよぶ。今回は安値から16%も上昇しており、その意味では、12月利上げを前提とすれば、すでに米利上げ前の高値圏に到達したと考えることもできる。ここから上昇した場合には、いったんは手仕舞いを進めるのが賢明であろう。

米国株は今後3カ月で10%下落の可能性

また米国の利上げは米国株にはやはりダメージとなる。過去3回の利上げ局面では、米国株は利上げ前後の高値から平均10%下落し、調整期間は3カ月程度に及んでいる。したがって、今回の直近の高値が利上げ前の高値とすれば、12月の利上げを前提とすれば、現在の高値から株価は10%下落し、底打ちは2月ごろになろう。米国株の2月の騰落率が低いことも、下落を加速させる可能性がある。

もっとも、その後は「5月に売れ」のアノマリーにしたがい、上昇基調に戻るだろう。米国の雇用は堅調であり、さらに住宅指数や自動車販売台数がきわめて好調である。景気動向を図る上で重要なこのふたつの指標が好調さを維持できていれば、利上げによる米国株の下落も「儀礼的な」下げにとどまるだろう。

一方、今年の夏に世界の株式市場を震撼させた中国の景気についても、引き続き不透明感は強いものの、同国の住宅価格は大きく上昇しており、極度に悲観的になる必要はないだろう。このように考えると、今後の米利上げを織り込む過程で見られる一時的な株価の下落は、今後の株価上昇の基点となるとも考えられる。その意味でも、12月15~16日開催のFOMCの1カ月前に相当する来週の動きに注目せざるをえない。

日本株については、米利上げ後の下落は米国株ほどではないにしても、円高が重石となり、その後の反発は鈍くなる可能性がある。政府による支援や外部環境の改善が日本株の支援材料になるかがポイントとなろう。おりしも、日米ともに来年は選挙が控えている。選挙が株価を押し上げる典型的なパターンになれば、米利上げが株価に与えるダメージはきわめて限定的なものになろう。

今後1週間(11月12日~11月18日)の日経平均株価の予想レンジは、1万9250円~1万9900円としたい。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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