ベンツが探る「本当に安全で快適な高級車」 来るべき自動運転の時代をどう考えるか

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F015でメルセデスが提案する2つ目のテーマが、人と車の情報のやり取りである「ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI、Human Machine Interface/Interaction)」について。ドライバーと車のHMIはこれまでも考えられてきたが、自動運転車になると、歩行者など外部環境との対話が非常に重要になる。現在はドライバーと歩行者、あるいはドライバー同士がアイコンタクトやジェスチャーで疑似的に対話しているが、自動運転車には通用しない。だからこそ、歩行者とのHMIが大切なのだ。

自動運転車と歩行者との対話は成立可能か?

メルセデスのコンセプトは「Shared Space」、車と歩行者で道路空間をシェアするという意味だ。3月に開催されたワークショップではF015が歩行者を認知すると停車し、路上にLEDで横断歩道を表示して、歩行者に横断を促すという仕掛けが披露された。

少し想像してみてほしい。商店街を歩いているとき、運転席に誰も座っていない車がスーッと入ってきたらどうか。あるいはドライバーがトランペットの練習に夢中で、全然こちら見ていないとしたらどうか。自動運転車はカメラやレーダー等により周囲の状況を認識しているが、こちらからは表情が読み取れない。次なる挙動をまったく予測できない相手なのだ。

人間同士であればアイコンタクトやジェスチャーでも伝わる。たとえば交差点に差し掛かった車に遭遇した歩行者が、ドライバーの様子を見て「この車は止まる気がなさそうだ」とか「止まってくれそうだ」などという判断もできるが、自動運転の世界では車側からの意図的な情報発信が必要だ。つまり、自動運転車が歩行者に対して「あなたの存在に気づいています」と伝えなければいけない。

HMI領域についてはまだまだ議論が必要だ。F015は疑似的な横断歩道を示すことで、歩行者に横断を促したが、ほかの方法も考えられる。また、歩行者が車に対して行う「お先にどうぞ」といったジェスチャーも、コンピュータは検知できなければならない。人間同士なら当たり前にできた行為を人間とコンピュータの間でどう実現していくのか、幅広い議論が求められる。

ひとつ確かなのは、自動車業界以外の業界との協業が欠かせないということ。F015の開発チームにはアレクサンダー・マンカウスキー氏という社会学者が加わっている。コンセプトカーの開発に社会学者が入るのは異例中の異例といっていいだろう。次回(11月17日配信予定)は東京モーターショー2015に合わせて来日したマンカウスキー氏へのインタビューをお届けする。

清水 和夫 国際自動車ジャーナリスト

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しみず かずお / Kazuo Shimizu

1954年 東京生まれ 武蔵工業大学電子通信工学課卒業。1972年のラリーデビュー以来、プロドライバーとして、国内外の耐久レースで活躍する一方、モータージャーナリストとして活躍を始める。自動車の運動理論や安全性能を専門とするが、環境問題、都市交通問題についても精通している。日本放送出版協会『クルマ安全学のすすめ』『ITSの思想』『燃料電池とは何か』 ダイヤモンド社『ディーゼルこそが地球を救う』など多数。日本自動車ジャーリナスト協会 日本交通医学研究会 会員。日本科学技術ジャーナリスト会議 会員(JASTJ)。

http://www.startyourengines.net/

https://www.facebook.com/kazuoshimizuofficial/

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