HISが今になって中国の旅行業者と組む事情 インバウンドは実は追い風ではなかった!

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前出の旅行会社の首脳は「日本から出入国する航空券は争奪戦になっている」と肩を落とす。さらに、訪日外国人にとって恩恵となっている円安も、日本から海外に行く日本人旅行客にとっては航空券価格やホテル代の上昇につながっている。実際、出国日本人数は2012年の1849万人をピークに、3年連続で前年割れが確実となっている。

中華系が牛耳る中国人の旅行手配

中国人客の手配は中華系の旅行業者に牛耳られている(撮影:尾形文繁)

中国人客の宿泊先や移動手段の手配は、中華系の旅行業者が中心的な役割を担っているとされる。一方、日本の旅行業者の取扱高は5%程度。急激に伸びゆく市場を前にして、これまでは指をくわえて見ているしかなかった。

HISやJTBはすでに中国に拠点を構えているが、知名度が低かったり、ツアー料金で現地の旅行業者と競争にならない、などの理由から、思うように現地の需要を取り込めていなかった。

そこで両社が選んだのが、現地の有力企業との提携だった。今回HISが組んだLY.comは、2004年の創業ながら、中国の旅行会社としては9位の規模を誇るという。取扱高にあたる営業収入は2014年の17.7億元(354億円)から、2015年には57億元(1140億円)を見込んでいる。

2012年に8318万人だった中国の海外旅行者数は、2014年には1.1億人を突破。年率10%超の成長が続いているとされる。LY.comの成長は、この中国の旅行需要の拡大を追い風としている。同社の予約サイトで、HISが企画する日本国内のツアー商品などを販売できれば、爆発的な成長を期待できる。

さらに、中国人観光客がさまざまな国を旅行する際、HISの支店網を活用してくれれば、現地ツアーの手配料などで収入を得られる。会見で平林社長は「(現在、年商100億円の)中国関連ビジネスで2000億円の売上高を稼ぎ出す」と高い目標をブチ上げた。 

ただ、いずれも中国頼みの事業であることには変わりはない。景気減速が伝えられる中、同国の海外旅行市場がどこまで成長し続けるのか。容易な挑戦でないことは確かだ。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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