初の中台会談にシンガポールが選ばれたワケ 「細心の注意」で勝ち得た、中台双方の信頼感

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シンガポールと台湾の関係は伝統的に深いものがあったが、リー・クアンユー氏と深い友情を結んだ蒋経国と違って、その後継者の李登輝総統は、リー・クアンユー氏と民主化をめぐって口論となり、どちらも中華世界のオピニオンリーダーでありながら、その主張は平行線をたどり続けた。

1980~90年代のトップ外交が、今の時代に作用

台湾の民進党政権も、シンガポールにおける言論の規制や一党専制的な政治体制への違和感からか、「星光計画」は維持したものの、両者の関係は冷え込む形となった。

その台湾・シンガポール関係を、再び蒋経国時代の状態に戻したのは、蒋経国氏を政治の師として深く敬愛する馬英九だった。政治は人間同士が行う血の通ったゲームでああり、信頼できない相手とは大きな仕事はできない。そう考えれば、これは偶然の結果とは片付けられないだろう。

蒋経国、リー・クアンユー、鄧小平という1980~90年代のアジアの巨星たちが結んだトップ外交が、この2015年、その下の世代の政治家たちの時代に、中台トップ会談という形で実を結んだと見ることもできるだろう。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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