iPS細胞を使った再生医療、今後どうなるのか 初めて臨床研究を行った高橋政代博士に聞く

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――何年も先のことを考えて、準備を進めてきたのですね。

iPS細胞のストック(京都大学iPS研究所〈CiRA〉が備蓄したもの。2015年8月に提供開始)も、何年頃にできるかはつねにCiRAから情報が来ていたので、そのときに他家移植がすぐできるように、全部並行して進めていたわけです。

さかのぼると、1995年にアメリカでこのアイデアを仕入れて、10年でメドをつけようと思っていました。実際、2005年頃にES細胞(胚性幹細胞)で前臨床まで行き、その後iPS細胞ができたので、あと5~6年で臨床に行けるなと。ここで、10年という最初のゴールが現実として見えてきました。

10年後には加齢黄斑変性治療をフルラインに

そのときに、それは最終的なゴールじゃない、ってわかったんです。臨床研究で自家移植を2~3例やっても仕方がない。私はたくさんの患者を治したいんだと。そこで、2010年頃に、企業による治験などを含めた、皆に届く最終形の治療を考えて取り組み始めました。

「10年後は見えてきたので、もうその次を考えている」と高橋博士。

iPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥先生には、2007年、ヒトiPS細胞の発表後にお会いして、iPS細胞で臨床を行います、と伝えていたのですが、昨年の臨床研究の1例目のあと、新聞に「そのときはすごいことを言う人だなあと思っていました」という山中先生のコメントが書かれていて・・・・・・。信じていただいてなかったことが初めてわかりました(笑)。

今、頭にある最終形は、10年後に自家細胞、他家細胞、浮遊液、シートが全部そろっているというものです。普及の中心は他家になります。自家は高額な治療ではありますが、ニーズはあると思っています。これを基点に、何をするべきか考えています。

研究者の中ではゴールから考えたということで、「変わった考え方だ」と言われて得意になっていたのですが、ビジネスマンに言ったら「それは普通ですよ」と言われてしまいました(笑)

――これから先の、最終形に向けたスケジュールを教えてください。

他家細胞のシート移植の臨床研究は来年にやりたいと思って、今準備を進めています。2年後にはヘリオスによる他家細胞の浮遊液の治験が予定されています。

その次が視細胞移植の治験。視細胞は、最初は網膜色素変性という病気が対象になります。5年以内、早ければ3~4年後に移植できたらと思っています。最終的には、網膜色素上皮細胞と視細胞をセットで、両方合わせたシートの治験もやりたいと考えています。なぜかというと、加齢黄斑変性も網膜色素変性も、進んでくるとどちらの細胞も悪くなってくるからです。

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