安倍政権の「政治判断」が就活を迷走させた 青写真を描いたのは誰か?

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13年3月15日、首相官邸2階で「若者・女性活躍推進フォーラム」の第2回会合が開かれた。この日のテーマは「若者の就職活動」。現状の説明があった後、商社の業界団体である日本貿易会の常務理事(当時、以下同)で伊藤忠商事出身の市村泰男氏が「後ろ倒し」を求めた。

「きちんとした形で学生を育てるということを考えますと(中略)、就職というのは4年生からやるべきではないか」

自民党青年局長の小泉進次郎氏も、後ろ倒しに賛意を示し、「夏の時期ぐらいまで後ろに倒してもいいと思います」

と時期に言及。私学事業団理事長で関西大学長なども歴任した河田悌一氏はより具体的に、「企業の就活の広報活動をぜひ、4年生の4月以降にしていただきたい。採用選考の活動は4年生の8月、夏休み以後に」

と踏み込んだ。その後、文科政務官の丹羽秀樹氏が、「最後は政治判断で(後ろ倒しを)やることも可能」

と発言。経団連常務理事の川本裕康氏だけが難色を示した。

「遅い期日だったときに、フライングだらけになって守られなくなったのです。(中略)ただ期日だけをずらしても、結局は、就職が決まらないで卒業する学生がふえてしまうことを危惧しております」

フライング横行 さらなる早期化

そこからの動きには、迷いがない。13年4月、安倍首相は自ら経団連、日本商工会議所(日商)、経済同友会(同友会)の経済3団体に「就活の後ろ倒し」を要請。5月には若者・女性活躍推進フォーラムが「15年度卒業者(16年4月入社)から、広報開始は3年生の3月1日、選考開始は4年生の8月1日以降」とすることを提言し、6月に閣議決定された「日本再興戦略」で、その提言通りのスケジュールが政府方針とされた。

経団連がこの年の9月に策定した「採用選考に関する指針」は、これに従ったものだ。3月の会合では唯一、後ろ倒しに反対していたのに。

当時、文部科学大臣を務めていた下村博文氏はこう話す。

「先進国で留学生が減っているのは日本くらい。内向き志向と言われるが、その大きな要因として就活がハンディキャップになっていた。だから政府として企業にお願いしたわけです」

しかし、後ろ倒しによって選考期間が短くなり、十分な採用活動ができないことを懸念した企業は学生とのさらなる早期接触を狙い、大学3年生向けサマーインターンシップが急増した。リクルーターを使ったり、面接を「ジョブマッチング」などと言い換えたりする企業のフライングも横行した。学生はまともに授業に出られず、4年生の夏に正念場を迎える理系学生の研究にも影響は大きかった。

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