企業の海外進出激増、円建て取引拡大に加え米国銀行買収も視野に

拡大
縮小

その後、しだいに円建て長期ローンの規模は縮小し、銀行内ではそれを推進するセクションすらなくなったという。

米銀買収もある

だが最近、資本市場では微妙な変化が起きつつある。外国企業によるサムライ債発行の増加である。久方ぶりのこの動きは円高メリット確保を狙ったものとみられる。そうであれば、今こそ円建て取引の拡大に向けた戦略論議を本格化させるべき局面に差しかかっているといえよう。

海外進出企業に対する安定的、持続的な資金供給のためには、母国通貨建て取引拡大のほかに、もう一つ方法がある。ドルが今後も、国際商取引、金融取引における絶対的な地位を保持する基軸通貨であり続けるという前提の下に、ドルの長期資金を確保する体制を整備するのである。具体的には、邦銀による米銀買収ということになる。

激しい金融市場の動揺という非常時体制下では、主要国の金融当局がドル資金の供給を継続することは当然だが、それを除けば、最も安定的なドル資金確保の方法は、やはり米銀を傘下に入れることである。

米国経済、そして米国の金融業界は一時の厳しい状況を脱しつつあるといわれる。欧州と比較すれば、確かに落ち着きを取り戻し始めている。だが、いまだ回復途上である。中でも商業銀行には、依然として経営不振のうわさが絶えない。資本調達の厳しさも解消されていないのが実情だ。

銀行買収はバランスシートの負債の部だけを買い取るわけではなく、資産の部も一緒だ。したがって買収で直ちにドル資金の供給が容易に行えるとはいえない部分もある。ただ、預金という安定的な調達手段を獲得する意義は決して小さくない。

海外進出した日本企業が金融市場の混乱などで金融面で不測の事態に陥らないようにすることは重要だ。

かつて満蒙開拓団が敗戦の混乱の中で、満州に置き去りにされたような事態は防がなければならない。

(シニアライター:浪川 攻 =週刊東洋経済2012年5月12日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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