企業の海外進出激増、円建て取引拡大に加え米国銀行買収も視野に

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新たな国際自己資本比率規制であるバーゼル�の導入も、邦銀の経営状態の健全性を失わせることにはならないだろう。その意味では、邦銀のドル資金調達に支障が生じるとは考えられず、企業に対するドル資金の供給を心配するのは杞憂にすぎないのかもしれない。

しかし、97年のアジア通貨危機の際には、アジア諸国ではドル資金の調達が著しく困難化し、現地に進出した大企業ですら資金調達難に直面した。「資金繰りは綱渡りのようになった」(大手製造業)という。

むろん当時と比べると、現在の進出企業数ははるかに多い。海外進出企業によるドル資金の潜在需要も膨張しているはずである。一方、わが国の金融業界ではその間、メガバンクの再編が起きている。結果として大手銀行はさらに巨大化したが、銀行数は激減した。

つまり、需要者の激増と、供給者の激減が同時並行的に進んでしまったわけである。この著しい変化を軽視していいものだろうか。

むろん、海外市場における資金提供者は邦銀に限らない。非日系銀行も日本企業への資金提供者である。しかし、少なくとも現在、欧州系銀行は能力を著しく欠いてしまっている。欧州ソブリン危機の進展を阻止する国際的な枠組みが成立したとはいえ、危機を収束させる道筋ができたわけではなく、欧州系銀行のドル資金調達能力には限界があるうえ、与信能力も回復していない。

一時ほどではないにせよ、多くの欧州系銀行が大手邦銀にドル建て資産の売却話を持ち込んでいるのは、その何よりの証拠である。そんな銀行群に資金供給を期待するのは楽観的にすぎる。

アジア経済圏で円資金市場が構築され、円建ての取引が拡大すれば、本邦企業の資金繰りをめぐる懸念は軽減されるに違いない。

ところが現実には、円資金市場の創設は過去に議論されたことはあるものの一向に進展せず、円建ての国際取引も増えてはいない。その実情を、あるメガバンクの元経営者はこう語っている。

「80年代、われわれは国際金融分野で長期の円建て取引(円建てローン)の拡大に取り組んだ。銀行が生保に融資し、さらに生保が長期の円建てローンをアジア諸国で展開するといった方法だった」

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