急増する「大人の発達障害」のリアル 「適職」を見つけることの重要性

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心療内科に相談するものの、ストレスへの対策ができず、ついにうつ病を発症。27歳で1年間休職することになる。発達障害がわかったのは復職して数年経ってからだ。

「復職してしばらくして会社が別の通信会社に買収されたんです。そのときに新しい産業医の紹介で主治医が変わって。その人と3~4回面談をして発達障害だとわかりました。最初は主治医もはっきりとは言わなかったんです。処方された薬がADHD向けの薬だったので驚いて医者に問いただしたら、そうですと。戸惑いましたが言われてすっきりした部分もあります。」

そこから岩本さんは発達障害やキャリア形成に関する本を読みあさり、自分の適職は何なのか、じっと考えた。

「決め手となったのは、チクセントミハイという心理学者が提唱した“フロー”という考え方です。フローとは “時間の感覚をなくしてやってしまうこと”。それがいちばん、幸せを感じる瞬間だということです。そこで、これまでの業務を考えて、“時間の感覚をなくしてやってしまうこと”は何か考えてみた。それが“分析”でした。商品の顧客分析をやっていたときは、とにかく楽しくていつも時間を忘れていたんです。自分のフローはこれだ、と確信しました。」

障害者認定を受けていた岩本さんは転職活動を開始。データ分析ができる仕事を探した。そして1年後、現在の大手外資系メーカーに障害者採用で入社した。世界中に支社を持つ大手企業だ。

成果が出たのはその1年後、担当分野の予測精度で、社内ランキング世界1位の実績を上げ、所属部署の日本・オセアニア地区2014年第3四半期の優秀賞を受賞したのだ。

「賞とは無縁の人生だと思っていましたから、本当にうれしかったです。今の職場では悩むことはほとんどなくなりました。自信がついたこともあるんですが、“自立”の意識を持つようになったことも大きい。自立とは、自分と周囲を切り分けて考えることだと思っています。自分は自分。他人と違っていてもいい。まずはそう思うことがスタートだと思います」

ボーダーラインは、うつ状態。専門医にすぐ相談を

働き始めてから発達障害と診断されるケースは多い

岩本さんのように学生のときは気づかず、社会に出て働いて発達障害だと診断されるケースは多い、と語るのは、1973年から障害者の職業問題にかかわっている文京学院大学人間学部人間福祉学科教授の松為信雄氏だ。

大人の発達障害が急増する理由は、「発達障害が世間で認知されたのが十数年前と歴史が浅いこと。発達障害の定義がいまだはっきりしておらず、医師であっても判断が難しいこと。親が健常者と同じ生活をさせたくて、無理して健常者と同じ進学をさせてしまうこと」などが挙げられるという。

「障害があるかどうかは申告制ですから、おかしいなと思ったら自分で専門家の門をたたくことが大事」と松為氏は語る。しかし岩本さんのように社内に産業医がいるなら相談しやすいが、いきなり病院の精神科にいくのは勇気がいる。

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