海外挑戦は虎穴に入らずんば・・・

プロゴルファー/青木 功

 メジャー大会の第1戦、マスターズは例年の事ですが、まるで台本のある映画のように劇的な展開で幕を閉じるんですね。それはオーガスタという名コースが舞台、そこに集まるゴルフをこよなく愛するパトロンたちの熱気がそうさせるんでしょう。時には選手があまりにも気が入り、心と体が空回りする場合もありますが。

マスターズと言えば今年3月、長年TBSでゴルフ解説をしていた岩田禎夫さんの出版記念パーティがあり、都知事の石原慎太郎さんと私で発起人代表を務めさせていただきました。本は『マスターズ・栄光と喝采の日々』と、マスターズの解説を40年にもわたり担当した岩田さんらしいものでした。そこに集まった人たちは、古いゴルフ記者やテレビマン。それに岩田さんのヨット仲間、石原知事もその一人のようでした。古い知人が集う会も、心が和んでいいものです。
 岩田さんが解説を始めた当時、マスターズに出場するには、今のように世界ランキングもなく、私は日本で好成績を残し、マスターズ委員会からの招待を待つしかなかったのです。1974年、初めて招待状を手にしたとき、「あのテレビで見たオーガスタで世界トッププレーヤーとプレーができる」と天にも昇る気持ちになったものです。春先のメジャー大会マスターズに、世界中の選手が照準を合わせてくるのは当然ですが、その前の週の大会、当時ノースカロライナ州で開かれていたグリーンズ・ボロ・オープンの良いところは、翌週のマスターズとまったく同じグリーンコンディションに整えてくれたことですね。皆、マスターズをイメージしながら試合に臨んだものです。

そこへ「調子はどう?」と訪ねてきてくれたのが、翌週解説をする岩田禎夫さん。その頃の記者の皆さんは、仮に私が何週間かアメリカツアーを転戦すると、その試合に合わせて一緒に移動してくれたんですね。われわれは夫婦二人だけの旅でしたから、晩飯は彼らと一緒になる、世間話のつもりがゴルフの話になって、それが記事になったりして、今の選手と記者よりも密度の濃いものだったんですね。と同時に、諸外国のプレーヤーと心触れ合う友人になれたのも、夫婦二人で旅したからだと思うんです。コースで女房が私のプレーを見て歩いてると、外国人選手の奥さんも同じようにしてるから、いつの間にか友達になり、ホールアウトすると晩飯の約束ができていたりする。
 これが良かったんですね、敵に勝つには相手の懐に入らなくちゃいけません。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですよ。日本人は団体行動が好きだからね。でも大人数で旅をしていると自然に壁ができて、周りの人が近寄りがたくなるんです。

「青木さんは外国に行っても何も不自由を感じないからいいね」そう言われるときもあるけど、やっぱり日本人、故郷を懐かしんで夜空を見上げたこともありますよ。

プロゴルファー/青木 功(あおき・いさお)
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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