40年前のSF映画が描いた近未来への警鐘 傑作・名作は時間が経っても色褪せない

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今回の特選『華氏451』
『華氏451』(1966年/フランス・イギリス/112分)

SFの抒情詩人レイ・ブラッドベリ原作、フランスの巨匠トリュフォー監督が撮った本作は、SF映画史上に残る大傑作だと思う。ただし監督自身は本作を、お気に召してはいないよう。なにせ彼はSFが大嫌いだと公言していたくらいなのだ。あるインタビューでは、「特に“宇宙もの”とか機械やロボットの出てくるものには生理的な嫌悪感を覚える」とまで語っていた。だから本作ではいかにも“SF的な要素”がほとんど排除されている。トリフォーがここで描きたかったのは、書物に対する限りなき慈しみにあふれた人間ドラマなのだ。華氏451とは、本(紙)が燃え上がる温度のこと。
 徹底した思想管理体制が布かれた近未来では、書籍の所有が禁じられていた。モンターグは反体制の人々が隠し持つ書物を見つけ出し、焼却することを任務とするファイアマン(消防士の逆=焚書官!)。何の疑問ももたず、任務を遂行するモンターグだったが、ある日「昔ファイアマンの役目は書物を焼くことではなく、火を消すことだったって本当?」などと無遠慮な問いかけをしてきたクラリスという不思議な女性と出会い、やがて書物の素晴らしき世界に目覚めるのだったが……。

本作は(実は英語がまったく話せなかった)トリュフォーにとって、初の英語圏製作であり、撮影も英国の撮影所とロンドン近郊で行われたことから、俳優&スタッフとのコミュニケーション不足の問題など、トラブル続出だったらしい。しかし、心に余韻を残す感動的なラストシーンを始め、多くの映画ファンにとって生涯忘れることのできない名作であることは確かだ。公開当時、初めてこの映画を観て、自分も“Bookman”(本作を観れば意味は解る!)になりたいとマジであこがれたのが懐かしい。

(文:たかみ ひろし/音楽・映像プロデューサー)

モノ・マガジン編集部

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