(第46回)中国自動車展開の大いなる幻影

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しかし、もう少し慎重に考える必要がある。なぜなら、販売台数に対する比率で見ると、売上高でも営業利益でも、アジアの状況は見劣りするからだ。表に示すように、1台当たりの売上高では、アジアは北米の半分程度でしかない。つまり、中国で売れる車は北米で売れる車とは異質の低価格車なのだ。1台当たりの営業利益では、アジアは北米の7割未満にしかならない。

中国における売上高営業利益率が高い数字になるのは、アジアでの人件費が安いからであろう。だから、多数の台数を売っても、利益の絶対額は、さほど増えないのだ。簡単に言えば、アジアでの事業は、「薄利多売」にならざるをえないのである。

これが、日本国内から見て望ましいかどうかは疑問だ。全世界事業展開における日本国内での活動の意義は、研究開発、基本的営業戦略策定等になるべきだからだ。その利益率を高めるには、全世界の利益の絶対額が増加する必要がある。

しかし、アジアでは低価格車しか売れないので、そこに経営資源をシフトさせていけば、全世界的な利益の絶対額は減ってしまう。それは、日本国内の事業活動の利益率が低下することを意味するのだ。つまり、売上高や営業利益でのウエイトの大きさだけでなく、売上高営業利益率の高さも、ある意味での「幻影」なのである。

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)

(週刊東洋経済2012年5月12日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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