ボスだけを見る欧米人 みんなの顔まで見る日本人 増田貴彦著

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「自己」についての認識の仕方も違っている。「私は~~」という文を20段に並べ、右の「~~」を記入させる「20の私」という心理テストがある。アメリカの大学での実験では「私は頭がいい」と書いた学生がクラスの90%以上であり、全体的に「○○な性格だ」という個人に属する性格、性質、能力で表現している。

東アジア系の場合は、「私は○○大学の学生だ」「私はサッカー部のキャプテンだ」
「私は長男だ」という社会的属性で表現することが多い。

著者はカナダの大学で教鞭を執っているが、カナダは毎年20万人以上の移民を受け入れている多文化国家だそうだ。中国、韓国、日本などからやってきた東アジア系移民も多い。

そこでヨーロッパ系カナダ人と東アジア系カナダ人を対象にし、「卒業した瞬間やスポーツの試合に勝った瞬間といった自分が場面の主人公になっている出来事を思い出して、それを話してもらえますか」という実験を行い、その分析結果が紹介されている。

ヨーロッパ系カナダ人の場合は、自分が場面の中心におり、「友達が目の前に突然やってきておめでとうと言ってくれた」という一人称の視点で話す人が多い。これを著者は、常に自分が世界の中心にいる「相互独立的自己観」と表現している。

東アジア系カナダ人は三人称の視点で記憶する傾向が強い。「自分は列の3番目にいて、卒業証書が読み上げられると、他の人と同様に壇上に上っていった姿を覚えています」という本来あり得ない視点で話す人が多い。他者の期待や役割に注意を向ける「相互協調的自己観」がこの視点を取らせているのだ。

本書の内容はじつに豊富。カナダの多文化主義を論じた7章の記述は、これから労働力人口が減少する日本にとって有益な情報かもしれない。20年後、30年後には資源や食料だけでなく人も輸入しなければ国が成り立たない可能性が高いからだ。

20年後を待たなくても、日本で働く外国人労働者と、海外で働く日本人は増え、多文化環境で働くことが一般化する。そんな時代がしばらくするとやってくる。

グローバル化に対し、日本では英語力だけが話題になりがちだが、互いの文化の違いを認識することも大切ではないだろうか。日本は単一民族国家だったからあまり注意を払ってこなかったが、世界にはさまざまな国と文化があり、異なるものの見え方がある。本書はそんな当たり前のことを教えてくれる。

(HR総合調査研究所(HRプロ) ライター:佃光博=東洋経済HRオンライン)

講談社+α新書 920円

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