中台は、なぜ「史上初の首脳会談」を行うのか 11月7日に開催、馬英九最後のあがきか

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台湾では反対運動も(写真:Reuters)

だが、7日の会談で何が出てくるかは不透明と言わざるをえない。馬総統側は「今回の会談では、協定への署名や協同声明の発表は行わない」としている。5日に台湾で記者会見を開いて会談の意義などを説明するというが、民進党など反政府側からは「中国に国民党の肩入れを行う屈辱外交」という反発がすでに出ている。

会談実施に中国側も応じたからには、両国に横たわるいくつかの前提条件がクリアされたのか、という疑問が湧く。それは、互いに政治主権を認めていない間柄であり、双方の首脳をどう呼ぶのかという呼称の問題、そして1992年に「一つの中国、各自解釈」で中台側が合意したとされる「92共識」(92年コンセンサス、92年合意)の解釈をどう行うのかという問題だ。特に92年コンセンサスについては、当事者である李登輝元総統などが「そんなものは存在しない」と否定する声がこれまでも根強く、逆に国民党が主導してこのコンセンサスを大陸政策に利用してきた経緯があり、これも台湾内での混乱と対立を引き起こしてきた。

習近平主席にとっても、現段階で台湾のトップと会うことは悪いことではない、という指摘が多い。本人も福建省書記を歴任してきたこともあり、台湾との関係改善(あるいは統一)には並々ならぬ意欲があるとされている。また、共産党トップとしても初の台湾との首脳会談という誰もやったことがない業績を上げることは、本人の権力固めにも有効に働く。

「初の会談」こそ意義がある?

一方で、来年の台湾総統選挙で優勢が伝えられている民進党候補が当選すれば、少なくとも4年間は台湾との首脳会談を行える可能性が極端に低くなる。大陸に目が向いている馬総統としては、在任中に歴史的イベントをやっておいたほうがいいという判断が働いたようだ。

先日中国が発表した第13次5カ年計画(2016~2020年)の草案の中にも、「一つの中国、92年コンセンサスの原則、中台は一つの家族である」との前提で、中台相互に開放を進めながら、台湾人民や中小企業への利益になる経済運営を行うとの文言が含まれている。中国側が台湾に対して強硬な姿勢を示しても、現在の台湾では反発が強まるばかりであることは、中国側も認識している。そのため、特に経済において、習近平主席はこの草案に書かれている範囲内に留まる形で発言するのではないかとの観測もある。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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