原発被害に悩む南相馬、医療再生の苦しい現実

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昨年4月に南相馬入りした坪倉医師は現在、ホールボディカウンター(全身測定器)による放射性物質の内部被曝検査で中心的な役割を担う。同医師らの働きにより1万2000人の市民がすでに検査を受診。2台目の装置の導入により、子どもを中心に年1回の検査体制が近く実現する。原澤医師は電子カルテや高齢者の安否確認システムの導入を通じて、地域医療のネットワーク構築を目指す。

もっとも、初めから事がスムーズに運んできたわけではない。

「仮設住宅の住民は、長い避難生活で健康が脅かされている」と考えた原澤医師が高齢者を対象としたインフルエンザと肺炎球菌ワクチンの出張予防接種事業を計画したところ、市役所の担当課から「仮設住宅集会所での医療行為は認められない」「開業医の先生方に迷惑がかかる」と横やりが入った。

しかし、原澤医師はあきらめずに仮設住宅の集会所に通い詰めた。30人近くに上る自治会長と話し合いを続け、予防接種に携わる医師の協力を取り付けたうえで市と粘り強い協議を継続した。地元の医師会長からは反対されるどころか、「よいことだからぜひやってください」と歓迎された。亀田総合病院からの寄付で、昨年12月までに延べ2000人にワクチンを接種した。

原澤医師の尽力が呼び水になり、市内の精神科病院の状況も好転した。大学の先輩に当たるさわ病院(大阪府豊中市)の澤温理事長に呼びかけたところ、理事長は昨年12月、市内で唯一稼働する精神科の雲雀ヶ丘病院を訪問。その後、雲雀ヶ丘病院はさわ病院から医師派遣の支援を得て、1月から4病棟のうち1病棟(60床)で急性期の入院患者受け入れを再開した。4月には福島県立医科大学に新設された災害医療支援講座から2人の常勤医師の受け入れが実現。仮設住宅での精神科医療の支援活動も始まった。

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