(第82回)条件について考える(その2)

山崎光夫

 社長の条件として、決断力、先見力、統率力、指導力などが思いつく。経営のトップともなると、普通人にはない、ある種、異常な力を秘めているものである。

 以前、雑誌記者をしていた時代、現役社長にインタビューして、社長としてのノウハウを検証したことがある。
 「5年先は読めるが、10年先はわからない」
 という社長が多かった。

 現代ではさらにスピード感が高まり、5年先どころか、1年先も読めないかもしれない。
 何人かの社長に会ったが、ソニーの大賀典雄社長の言葉や態度は忘れられない。もう30年以上を経過するのだが、今なお会ったときの爽快感とパワーが印象に残っている。大賀氏は私のような駆け出しの記者にも親切丁寧に応じてくれた。

 当時、まだ、CBSソニーの社長だった大賀氏は次のように語ったものだ。

 「年上の人でも平気で叱れるようでないと、社長にはなれません。私がソニーで部長になったときは、29歳。課長は40代の人たちでしたが、こういう人たちに向かってでも、平気で命令を下せるようでないと、いけません。大切なのは、説得力。心からわかったと思ってもらわないことには、うまくいくはずがない。たとえ叱っても、あとで別れるとき、お互い笑い合える空気を作れる度量がないとだめなんだ」

 今日、振り返っても含蓄に富んだコメントだと思う。

 大賀氏は、経営の資質は、生まれたときに決まっているという、人材“女王蜂論”の支持者だった。蜂という組織の中で、無数の蜂を統率し、君臨している唯一の蜂=女王蜂のように機能する経営者がイメージできる。
 資質を持っているかどうかが問題となるようだ。
 大賀氏はこの“女王蜂論”を平気で公言して憚らなかった。
 言葉だけをとらえれば、傲慢と受け取られかねない。だが、大賀氏には、自信過剰や傲慢さを突き抜けて、人に爽快感と明快さをもたらす魅力にあふれた個性と能力がある。

 振り返って、昨今の社長の実態を見ると、すべての社長とはいわないが、女王蜂からほど遠いように思われる。

 このところ、社長による謝り会見が多すぎる。
 会社の不祥事や収益の悪化、無責任事故、不正経理、会社の私物化など、テレビで毎日のように謝罪会見が開かれている。
 最近の社長には、おじぎ上手な「お詫び力」が必要とされているのではないかと勘ぐりたくなるほどである。

 肝心の会見では、
 「世間をお騒がせして申し訳ありません」
 と言うばかりで、何ゆえ謝罪に至ったかの理由と今後の対策の道筋が欠けている。
 世の中は誰も納得しないのである。欲求不満で不健康におちいる。

 大賀氏のような女王蜂社長の爪のあかでも煎じて飲ませれば少しは骨のある対応がとれるかもしれない。だが、所詮、女王蜂ではない、働き蜂が社長を務めているとしたら、不満と消化不良の会見に終始するのは仕方がないのかもしれない。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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