エルピーダメモリ争奪戦、交錯する各社の思惑  終焉を迎えた、日本のDRAM産業

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雇用を守りたい政府 広島維持への出資案

マイクロンとハイニックスは、エルピーダ買収によるシェア拡大が狙いだ。加えて、エルピーダが持つ低消費電力のモバイルDRAM技術も欲している。その両社にしても、高コストの広島工場を維持する気があるかははっきりしない。

そのため、政府の一部は広島工場の先行きに危機感を募らせている。税金を投じたエルピーダが破綻したうえ、雇用が失われることは避けたい。そこで浮上してくるのがアブダビのファンドが出資するグローバルファウンドリーズ(GF)。今のところGFは支援企業に名前が挙がっていないが、エルピーダの広島工場をGFに売却する案を産業革新機構が画策している。この案には反対もあるため流動的だが、何らかの動きが出る可能性がある。

これとは別に、エルピーダを国内に留め置きたい政府筋と、自社の負担を軽減したい東芝の利害の一致から、政府が間接出資する企業再生支援機構が東芝を支援する案もある。

さまざまな力学が複雑に絡み合うエルピーダ支援だが、はっきりしているのは、DRAM事業にはもはや大きな将来性が見込めないこと。

スマートフォンやタブレット端末の普及で、DRAMの最大の需要先だったパソコン市場の成長率が減速しているうえに1台当たりのDRAM搭載容量の伸びが鈍っているからだ。スマホやタブレット、デジタル家電向けの需要増は思ったほどではなく、生産技術の向上などによる供給量の増加が需要の伸びを上回り続ける可能性が高い。当分は強い需要増が期待できるNANDとは明暗が分かれた形だ。

こうした状況下、DRAMビジネスはライバルを蹴落とし、残存者利益を確保する競争になっている。破綻前のエルピーダも他社の振り落としに躍起になっていたが、先に力尽きてしまった。エルピーダの再建計画がどのような形になるにせよ、日本のDRAM産業が終焉を迎えたことだけは間違いない。

(長谷川高宏、前田佳子、山田雄大 =週刊東洋経済2012年4月21日号)

 

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