プロゴルフ「冠」大会に主催企業が秘める思い その費用対効果はいかほどのものか

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もちろん、トイレは不可欠だ。ギャラリーが観戦しやすいように、スタートホールや最終ホールにギャラリースタンドが作られている。これも、ゴルフ場の形状によっては必要になってくる。そうした会場を設営するための設備費、人件費も乗っかる。「ギャラリーには来てもらいたい。でもトイレを増設するとカネがかかる」という悩ましいこともあるという。

さらに、大会運営にかかる人件費も必要だ。駐車場の整理や、最寄り駅からの送迎バスなども必要だろう。競技運営でも、競技委員会がないと競技を開催できない。テレビ放送をしたい場合も、放送にかかる制作費用を主催者が負担するのが一般的だ。そのために、カメラ用のヤグラを立てたりする。

ひとつのトーナメントを開催するためには、ギャラリーに配るスタート表の紙1枚から、こうした金額のかさむものまで、費用はどんどん膨らんでいく。ざっと、トーナメント開催のための主催者負担は賞金総額の3~5倍ぐらいが今の相場だという。

では開催のメリットはどこに?

トーナメント開催のメリットを聞くと「プロアマ大会の開催」を挙げる主催者が多い。プロアマ大会とは、トーナメント前日に主催者が得意先などを招待して、ツアープロと一緒に回って慰労する大会。「プロアマ大会のために主催している」という主催者もあると聞くほど、トーナメント開催の「意味づけ」になっている。

帝国ホテルで感謝パーティーを開いたらいくらかかるかはよく知らないが、そうした位置づけなのだろう。このため、各協会も主催者が離れないようにプロアマ大会を選手たち、特に上位選手や有名選手たちの「重要な仕事」と位置づけて、出場選手などにも義務を課している。正当な理由なしに欠場すると、懲罰規定に引っかかる。主催者、協会ともプロアマ大会の成功が最重要とさえ思えるほどだ。

このところ、女子プロゴルフは4週連続、9週中8週で韓国、台湾勢が勝っている。終盤戦の大きな呼び物である賞金王・女王争いも、男子は金庚泰、女子はイ・ボミが独走している。視聴率は平均5~6%、ギャラリーの数は微増。開催費用が「広告宣伝」の名目であっても、そんなに「宣伝」にならないかもしれない。

今年、シニアツアーで賞金総額2000万円の「郷心会40周年記念 広島シニア選手権」が行われた。広島県の企業グループの主催で、大会には優勝トロフィーもなかったが、地元の倉本昌弘PGA会長が優勝するなど盛況だった。やり方次第では、こうした規模でもトーナメントが開ける。

男子では福島県も後援する「ダンロップ・スリクソン福島オープン」が、賞金総額5000万円で開催2年目になり、契約先ということもあって松山英樹が参戦した。最低賞金総額でも十分、トーナメント的には他と遜色ない。

トーナメント開催にはおカネがかかりすぎるのが現状。バブル期に肥大したままになっている。各協会とも「地域の活性化」を掲げているが、実情は前述したような多額の費用を負担できる企業頼みになっている。女子ツアーは「プロアマ大会」の盛況もあって開催枠はほぼいっぱいになっているが、男子やシニアには余地がある。最低賞金総額の見直しもそうだが、開催総額を抑える工夫をしないと、毎年のように「来年のスケジュールは大丈夫?」という声も聞こえてきそうだ。

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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