「中国崩壊」論は、単なる願望にすぎない それでも中国経済は日本の脅威になる

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昨今の「中国崩壊」を謳った本や雑誌を見るにつけ、日本人はあの戦争を反省していないなと思ってしまう。ただ、筆者は声高に反戦を叫ぶデモを行えと言っているわけではない。もっと中国に謝る必要があると言っているわけでもない。

平和を維持するためには、国際情勢を冷静に分析することが重要である。「中国崩壊」と題した本や雑誌は、まさに、国民の願望をあおる形で戦前と同じような状況を作り出してしているのではないか。

もはや中国の輸出規模は日本の3倍

その結果、日本は正しい方向に舵をとることができなくなってしまった。ただ、それは日中戦争の再来を意味するわけではない。歴史はらせん型に繰り返す。もう一度、同じことを繰り返すわけではない。今度の戦争は武器を使った熱い戦争ではない。経済戦争であり、貿易戦争である。

冷静に分析すれば、過去10年間、日本は中国との貿易戦争にぼろ負けしている。「えー、あのすぐ壊れる粗悪品を作っている中国に負けているの!」。多くの人が、そう思うだろう。だが、実際に負けている。その事実を知らないのは、マスコミが正しい情報を伝えてこなかったためだ。

ただ、その背後には、誰も中国との貿易戦争を冷静に分析してこなかったという事実がある。マスコミが報道しようにも、報道すべきコンテンツがなかったと言ったほうが適切だろう。

10年ほど前、日本と中国の輸出額はほぼ同額だった。しかし、2014年に中国の輸出額は日本の3倍になっている。2015年になって中国経済にバブル崩壊の兆候が見られ、輸出額が前年割れしていることはよく報道されている。ただ、前年割れすると言っても、それは数パーセントのオーダーである。だから、日本の3倍もの金額を輸出している事実に変わりはない。

アベノミクスの大胆な金融緩和によって、円はドルに対して大幅に安くなっている。一時は1ドル=76円にまでなったが、現在は120円程度になっている。しかし、それでも輸出が思ったように増えない。その最大の原因は、世界中で中国の製品と競合して、競り負けているためである。

為替を大幅に下落させても勝てない。この事実は重い。それは円安がこれからも続く保証はないからである。現在、海外旅行をすると、海外の物価を高く感じる。日本の実力を考えれば、円は不当に安くなっている。日銀の超金融緩和政策によって、円が過度に安くなっていると考えても間違いではないだろう。そうであるなら、数年のオーダーで見れば、1ドル=80円程度の円高が再来してもおかしくない。

だが、1ドル=80円時代が再来すると、日本の輸出産業は絶滅するかもしれない。われわれは恐ろしい時代を生きている。しかし、マスコミはその事実を知らせることなく、中国が崩壊するなどといった無責任な情報を垂れ流している。そして、多くの人は心地よい情報を喜んで受け入れている。

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