タモリの半生には日本戦後史が詰まっている 糸井重里と近藤正高が語り尽くした!

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糸井:親子の関係っていうのも内面を育てる大きなものだとしたら、タモリさんも僕も親子の関係というのがすごく漠然として、しっかりしてないんですよね。

近藤:そうですか。タモリさんの場合、幼い頃にご両親が離婚されて、それからずっと祖父母に育てられたわけですよね。

糸井:村松友視さんもそう。みんなじいさんばあさんに育てられた子なんですよ。内面が薄いというのは、その人たちの欠けてる部分なんじゃないですかね。たとえば、他人が「お母さん!」と言って抱きつくみたいなことをやってるのを見ると、僕なんかはやっぱり、めちゃくちゃ恥ずかしいんですよね。でも、それが普通なんだとしたら、すごく俺は欠けてるなって思いますね。そこはタモリさんにも村松さんにも感じる(笑)。

テレビの中ではおじいちゃん的な立場

近藤:「タモリはおじいちゃんになりたがっている」って、ナンシー関さんが1998年ぐらいに書いてるんですけど、確かにある時期からのタモリさんのテレビのなかのポジションって、親ではなくて、おじいちゃん的な立場になってるんですよね。ほかの出演者に対して一歩引いて見てるというか。

糸井:僕も弱点としてのおじいさん的ポジションというのをよく意識して、「あ、気をつけよう」って思うことが多々ありますね。それは何かというと、庭に穴があったら、「子どもが転ぶからふさいでおこう」ぐらいのことは思うけど、親はなかなかふさがない。子どもが転んでから駆けつける。それに対しておじいさんは、夕方子どもが帰ってくる前に「ここ穴あいてるから、ちょっと埋めとこう」って思う。場合によっては人足を雇って頼んじゃう。それがおじいさんなんですよね。でもそのせいで転ばない子どもができちゃった。それはおじいちゃんの弱点だと思ってるんです。だから会社がまずいなって思ったときに、自分のおじいさん的ポジションを反省するんですね。

近藤:子どもは転んだほうがいいですか。

糸井:転んだほうがいいです。転ばないと、本当に転んだときに泣き叫んで何もできない子どもになっちゃうんですよね。何回も転ぶ子どもって、転ぶのを屁とも思わないですから。だから自分のチーム像としては、転ぶのを屁とも思わない子だらけになるのが理想ですね。でもタモリさんのおじいさん性は、もうちょっと一人ずつ面倒見てる感じがありますね。「ごはん食べる?」的な。

近藤:SMAPの草なぎ(剛)さんが毎年正月はタモリさんの家に入り浸ってるとかいうのも、居心地がいいからなんでしょうね。

糸井:あと、今の親が子どもの面倒を見るっていうのはやっぱりエゴイズムなんですよね。親はどこかで、自分ちの子どもにいい目を味あわせたい、いざとなったらよその子を蹴落としてでも出世してほしいぐらいのことを思ってるわけです。身を削って世話をすることというのは一種のエゴであり本能であるけど、おじいさんがやってるのって、もっと無責任じゃないですか。無責任な分だけエゴは薄いんですよね。タモリさんには最初からその要素があったと。

近藤:ありますねえ。

糸井:それはやっぱり、おじいさんとおばあさんに見てもらっていたっていうところの楽しさを知ってたからじゃないかなあ。おじいさん的なるものっていうのと、さっきの暇なるものっていうのは、とても似てますよね。機能しないところが。

近藤:そうですね。

糸井:そのわりにはタモリさんも僕も解決したがりますけど(笑)。

読書人の雑誌「本」(講談社)2015年11月号より

講談社『本』編集部

読書人のための月刊情報誌「本」は、講談社が発行する新刊書籍のガイド。著者による特別エッセイのほか、幅広い話題を提供している。

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