ユーロ紙幣が支える「想像の欧州共同体」--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授

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また、友好の破綻についてもいくつか目立つものを検討している。米国の南北戦争(1861~65年)、日英同盟の失効(1923年)、中ソ関係の断絶(60年)、アラブ連合共和国の崩壊(61年)、マレーシアからのシンガポールの分離・独立(65年)などである。

ユーロが分裂してもシンボルは維持できる

カプチャン氏は国家間の礼譲の条件として共通通貨を挙げていない。実際、経済統合というものは、政治的統合の達成の前ではなく、後に来る傾向がある。むしろ同氏は、外交的な取り組みこそが、戦略的な和解と相互の信頼にとって本質的な要素であると見なしている。

一方で、共通通貨が国家間の持続的友好関係を構築する助けになりうることも示唆されている。氏は友好関係が最も確実になるのは、アイデンティティを変えるような「ナラティブ(物語)」が根付き、国家同士が家族の一員であるような感覚が生まれた後だと論じている。共通通貨はそうしたナラティブを生み出す助けになりうるのだ。

通貨より旗のほうが運命共同体のシンボルとして人心を鼓舞するかもしれないが、私たちの多くは旗を持ち歩いたり、掲げたりしない。例外は、大きなスポーツイベントぐらいだろう。EUの旗は存在するが、EU当局の建物以外の場所で目にすることはめったにない。

ある英国人教師が1910年にその気持ちをうまく表現している。

「私たちは、宗教など人生で最も深遠な価値があることについて語る人を疑うように、愛国主義や帝国主義を語る人を疑う。その人は詐欺師であるか、言葉というものが最も深遠なことを表現するのに不十分であることに気づいていない浅薄な人だと感じる」

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