(第81回)条件について考える(その1)

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山崎光夫

 このたび大学教授、名誉教授と対談する機会があった。
 現役の大学生に様変わりがあるようだ。
 東日本大震災後、学生の目の色が変わったという。勉学や生活に真剣に向き合う姿勢が出てきているらしい。
 大震災は不幸な災害だったが、反面、若者に喝を入れたようだ。
 今までぬるま湯できた大学生も少しは性根が座ってきたという。

 さらに聞くと、女子大生の就職が厳しいという。
 デフレ、円高、ユーロ不安などが経済の低迷に拍車をかけている。人は働き口を見つけ、社会に認められて初めて健康的な精神を持てるだろう。
 だが、就職難はまだまだ続きそうだ。

 一方、結婚こそ幸せの原点と考える若い女性も増えているらしい。
 「絆」ブームではないだろうが、結婚を真っすぐに考える女子大生も増えたという。

 女性が結婚に際して考える相手の条件として、ひと昔前までは、高学歴、高収入、高身長の「3高」が目標だった。
 ところが今は、「3低」だという。低姿勢、低リスク、低依存がその内容である。低姿勢は、女性に対してあくまでやさしく、低リスクは、経済的安定、低依存は、頼ってこない--を意味する。

 「3高」から「3低」へ--。インフレ時代からデフレ時代に移行したので、結婚条件も変化したのだろうか。
 条件も変われば変わるものである。

 現代女性が結婚で絶対に欠かせない夫の必須条件は、「正社員」だという。派遣、臨時、非正規……いずれも失格。
 今の時代、「正社員」の響きは、男女を問わず若者を魅了する。生活上の福音であるようだ。

 女性が結婚して家庭に入り専業主婦になるのを、「永久就職」と称した時代もあった。女性の自嘲と男たちの軽蔑がない交ぜになった表現だった。
 もっとも、この頃、女性の社会進出は相当難しかった。
 現代では、専業主婦をことさら社会的落伍者のように軽視する風潮がある。

 私は専業主婦という立場を、母親、教育者、心理学者、料理人などの要素を持った専門家だと思っている。専念し始めたらきりがないほど、その仕事の内容は奥が深い。
 専業主婦こそ、高度で知的で崇高な「職業」もないのではないかと思う。教育エリートともいえる。

 女性は専業主婦を卑下したり、失望したりする必要はまったくない。
 専業主婦が自信を持ち、誇りを持てば、この社会はもっと健康になるのではないかと考えるのは私だけだろうか。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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