東京国際映画祭には、大きな「弱点」がある トップが語る「2020年に向けてやるべきこと」

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――椎名さんがディレクター・ジェネラルに就任した際には、誰もが参加できる身近な国際映画祭にしたいと表明していましたが実現できたという思いはありますか。

映画祭の敷居を下げなければならない

国内外の多くの作品が開催期間中に上映される(撮影:宇都宮 徹)

それに関してはまだまだだと思います。先日、映画が好きな学生さんたちと話す機会があったのですが、彼らはまだ敷居の高さを感じていたようです。映画に興味を持っている人ですらそうなので、敷居は下げる必要があるなと思っています。六本木や新宿に行けば面白いことをやっているなという感じにしたい。

そのために「東京映画食堂」というものもやったし、J-WAVEやインターFMでお茶の間に放送するプログラムを作ってそこで告知するということもやっています。それらがきっかけになればいいなと期待しているんですけどね。もちろん映画ファンというコアな人たちは大事ですし、その人たちを裏切っちゃ駄目だと思いはあります。彼らを満足させなければ駄目だと思う。それを踏まえた上で、敷居の低さも大事だということです。

――椎名さんに替わってから「アニメ」や「東京映画食堂」などが設立されたように、映画祭のバリエーションが増えたようにも思います。

去年からいろいろとチャレンジさせてくれたということもありますね。もちろんうまくいかないこともありますけど、チャレンジは明快に押し出さないといけないと思っています。もちろん反発もありますよ。でもそつなくやっていたら何も返ってきません。僕が就任した時(第26回)がそうだったんです。毎年、何かしら問題があるものなのに、問題がなさすぎてみんなビックリしていました。本数を減らしたりして叩かれたというのはありましたが、それ以外は何の問題もなかった。その時ですよ、「みんな関心がないんだな」と思ったのは。

――何も問題がなければよかったとなりがちですが、そうではなかったと。

そうじゃないんですよ。ノイズがなかったんですよ。アジア最大級の映画祭と言いながらも。アジアでさえも釜山国際映画祭に負けてしまい。「どこへ行くのか、TIFF」なんて書かれたりしましたけどね。いまだにオープニングイベントでは、(エコロジーをテーマにした)グリーンカーペットをやっていると思っている人もいますからね。

――グリーンカーペットはインパクトがありました。

それはいいことなんです。ノイズがあるから。それは僕がトップになってからわかったことですが、やはりレッドカーペットを緑に変えたというのは画期的だった。「なんで緑なんだ」という反発が出てくることはいいことなんですよ。第26回にはそういうことがなかった。それは反省すべき点ですね。

――その反省を踏まえて第27回になったわけですね。

それで去年、アニメを全面的に押し出したわけですが、そりゃ反発は来ますよね。ほかにも邦画の上映に力を入れたら、国際映画祭なのに全然インターナショナルじゃないじゃないかとか、「東京映画食堂」をやると、映画本来のことに力を入れないと駄目だとか、どんどん来ましたね。

これは来たなという感じですよ(笑)。結局、何をやったって絶対に「椎名、よくやっているな」と褒められることにはならない。だったら関心を持ってもらうためにノイズを混ぜてやろうと。そうすればきっと面白くなるはず。今までみたいな静かな映画祭では駄目なんですよ。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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