「経済首相」の気配、いまだなし

「経済首相」の気配、いまだなし

塩田潮

 野田内閣が消費税増税法案の国会提出に漕ぎ着けた。民主党内の事前審査で問題となった付則の景気条項は「名目3%、実質2%程度の成長」を指標に掲げることで決着し、再増税条項は削除された。

 野田首相は記者会見で、成長率の数値目標について、「増税の前提条件ではないが、政府としての目標。早い段階での達成に全力を尽くす」と述べた。

 2000年以降の実績を見ると、実質成長率が2%を超えたのは00年、03年、10年だけで、名目成長率は3%どころか、2%にも届いていない。実現困難な数値目標を入れると増税ストップ容認になると首相は最後まで抵抗した。

 だが、もともとは野田政権が昨年12月に閣議決定した「日本再生基本戦略」で打ち出された数値だ。増税法案の付則にこの数字を書き込んだことで、野田首相は増税と併せて再生基本戦略の実現を約束した形となった。

 増税最優先の野田首相の再生基本戦略に対する本気度ははっきりしない。だが、法案提出を終え、国会と与党の協議に身を委ねた野田首相は、ここまでの「増税首相」の看板を脇に置いて、4月以降は「行革首相」「経済首相」を目指さなければ、増税実現も困難だろう。

 反対派の小沢元代表の「増税の前にやるべきことがある」という主張は正しい。歳出削減、行革、経済活性化などを同時並行で推進しなければ、国民の支持は得られない。

 振り返ると、昔は「経済宰相」と呼ばれたリーダーがいた。「5~10年で所得倍増」と唱えた池田元首相、第一次石油危機後の苦境を「全治3年」と診断して克服に邁進した福田赳夫元首相は、ともに明確な数値目標を掲げて日本の将来像を示し、それを実現した。

   経済成長が望めない現代とは時代が違うという意見は多い。だが、再生基本戦略に数値目標を謳い、増税法案にも盛り込むことを認めた野田首相はこの際、真剣に数値目標の達成を目指したらどうか。

 説明不足が目立ついまの野田首相は「経済首相」のイメージからはほど遠いが、増税と経済活性化の同時実現に政治生命を懸ける決意を固め、英知を結集して挑めば、久しぶりの「経済首相」登場となるかもしれない。その気配は見えないが。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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