人間の生活は人工知能に脅かされるのか? あらためて考える「人間ならではの特性」

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つまり、ITやインターネット界のシステム構築とかプラットフォームづくりでは米国の後塵を拝してきた日本ですが、それこそ寿司職人ロボットや介護用ロボットのような新しいサービス分野では、むしろ日本のほうが強みを発揮できる。こうした分野から、新しいタイプの産業が生まれてくる可能性が、非常に高いと思いますね。

結局、求められるのは「人間力」

──そんな人工知能時代を生き抜くために、私たちはどうすればよいのでしょうか?

一言でいえば、人間力を磨くことです。人間力とは何か、定義も定量化もできていないので実は難しいことですが、ただ人間力というものが存在することは、皆さんも認識しているはずです。ですから、この人間力をどう鍛えるか、これがこれからの人工知能時代を生き抜くうえでの大きな課題だと思います。

カギになるのは「非定型的」ということ。すでに述べたように、定型的なことは人工知能の得意分野であり、人工知能でたやすく対応できてしまいます。ですから私たち人間は、人工知能が不得手である非定型的な場面に遭遇したときに、いかに取り乱さずに的確に対処できるか、そのためにどれだけ非定型的な場数を踏んでいるかが問われるのです。

──非定型的な場面とはどういうものでしょうか?

たとえば、組織で言えば不祥事などは最も非定型的なケースですね。個人でも、受験に失敗したとか、失恋したとか、簡単に言えば失敗とか挫折ですね。失敗というのは、実はチャンスなんですよ、自らを鍛えるための。ピンチはチャンスとはまさにそのとおりで、人生でもいろいろとピンチが来るじゃないですか。そういうときがいちばんのチャンス。

シリコンバレーの起業家でも、会社を潰した人間は、次の機会にはより多額の融資をしてもらえると言われます。会社を潰すっていうのは、それなりに大変な経験じゃないですか。少なくとも歓迎すべきことではない。でも、そのすごい経験をした人は、やはり経験値が上がっていると周囲から評価されるわけです。

ですから、失敗や挫折をたくさん経験して、そこでどう対処するかというスキルを磨くことが、これからの時代にいちばん求められることなのです。ルーティンでできることじゃなくて、生涯で一度くらいしか経験しないようなレアな体験、非日常の経験も効果が高い。それらをどれだけ積み重ねていけるかが、人工知能に勝ついちばんの方法だと思いますね。

茂木 健一郎 脳科学者

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もぎ けんいちろう / Kenichiro Mogi

1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』など著書多数。

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