資本主義以後の世界 日本は「文明の転換」を主導できるか 中谷巌著 ~危機の原因はフロンティアの消滅

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さらに言えば、モノ作りで日独の後塵を拝するようになった米国は「金融立国戦略」に転換し、「ヘゲモニーを維持するために金融経済化を画策する」。日本は米国から構造改革を迫られた。米国の対日戦略は「官僚つぶし」と「金融つぶし」の二つで、「これらは、米国の金融立国戦略を成功させるために不可欠であった」と指摘する。その結果、日本の「完全雇用文化」や企業間の「信頼感」が喪失したと批判する。

では、これからどうすべきなのか。著者は「資本主義以降の世界」を構想するためには「交換」から「贈与」への「文明の転換」が必要であると説く。日本がその転換を主導するためには、「近代化の過程で置き忘れてきた日本の伝統的価値を思い起こすこと」が重要と主張する。

問題提起は刺激的だが、俎上に載せた資本主義の分析で粗が目につく。目先の状況と超長期の議論が交錯するところもあって、著者の構想は説得力に欠ける感が否めないのは残念だ。

なかたに・いわお
三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長、不識塾塾長、一橋大学名誉教授、多摩大学名誉学長。1942年生まれ。一橋大学卒業。日産自動車に勤務後、米ハーバード大学でPh.D.。同大学研究員、大阪大学教授、一橋大学教授、多摩大学学長などを経る。

徳間書店 1680円 350ページ

  

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