日本企業は「AI技術」を使って何をするべきか 世界では技術の争奪戦が始まっている

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――高度なアルゴリズムをつくるデータサイエンティスト人材は報酬が高そうです。

シリコンバレーでは職務経験のない新卒に2000万円を越える年収を出すようになっています。業界の有名人には途方もない金額が払われています。実際に米国企業の方から日本の人材は非常に安いと言われたことがあります。

企業としてできることは大学との提携や、他社・他業界からの引き抜きがあり、海外の大学でデータサイエンスや解析の教育課程ができていますので、センスの良い社員を派遣することも検討すべきでしょう。弊社でもデータサイエンティストを米国の大学に派遣しています。アルゴリズムはつくる人が優位性のすべてです。

――人材づくりへの政府のかかわりは?

次世代のAI技術については総務省、文部科学省、経済産業省が3省連携で取り組んでいます。特にディープラーニングのような次世代の基盤技術の人材教育には官の力も必要だと思います。

また、日本は課題先進国であり、米国政府のロボティクス・チャレンジのように、世界の学者やハッカーに魅力的な課題設定をしてコンテストで競争させるのもありです。東京の複雑な道を自動運転車が走るといった課題です。AI技術は社会実装されるので、その事業経済性が政府でも考慮されるべきです。

法規制や標準化への対応をどうするか

――ビジネス視点ですね。他に企業のプロジェクトで問題となるのは何でしょうか。

技術が関わるプロジェクトはどれもそうですが、事業課題を設定し、AI技術が自社のバリューチェーンにどのようなインパクトがあるかを分析する。次に法規制や標準化への対応問題が出てきます。自動運転車もドローンも公道などでなく工場敷地内であれば使い道があります。コマツは建設現場の測量にドローンを使っています

またビジネスモデルの整理として、事業主体、アルゴリズム保有者、データ提供者、データ保有者を明確にすべきです。プロジェクトではデータの保有者から使用許諾が取れているかが頻繁に問題となります。遺伝子・医療関連の個人データは特に注意が必要です。

――確かにデータ保有者からすれば勝手に使われることは気になります。最後に近い将来でAI、IoTが活用されるのはどんな産業でしょうか。

すべての業界がそのバリューチェーン上でアルゴリズムによる解析に影響を受けていくことでしょう。製品の生産管理、需要予測などです。一方で教育、医療、防犯などはアルゴリズム提供会社ではなく運営主体が活躍できそうです。いずれにせよ、何がアルゴリズムによる解析の経済的価値なのか?を企業は考えるべき段階に来ています。

塩野 誠 経営共創基盤(IGPI)共同経営者/マネージングディレクター JBIC IG Partners 代表取締役 CIO

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しおの まこと / Makoto Shiono

国内外の企業への戦略コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務に従事。各国でのデジタルテクノロジーと政府の動向について調査し、欧州、ロシアで企業投資を行う。著書に『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)等、多数。

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