際どすぎる「観察映画」制作と販売の舞台裏 「カメラを持て、町へ出よう」を読む

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「観察映画」の舞台裏とはいったい?(写真 : nito / PIXTA)

世界に売り込む「観察映画」の舞台裏

『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論 (知のトレッキング叢書) 』書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

著者の映画では、際どい場面でもモザイクを一切使わない。「そのまま流して大丈夫か」とハラハラさせられるのだが、その映画制作の舞台裏を教えてくれるのが本書である。

たとえば、6時間近い作品となった映画『演劇1・2』では、撮影した映像は307時間に及ぶ。作品として残るのは全体のわずか2%。ほぼすべてを捨てることになる。取材されてもボツにされてがっかりした人も多いと思うが、徹底して絞らなければいいものはできないのだ。

この選び抜かれた2%は面白くて大切な部分ばかりである。それをつなげれば、さぞかし濃厚な作品ができあがるかというと、ほとんどの場合は見るに堪えないという。面白い映像をつなげただけでは作品にはならない。4番打者ばかり並べても勝てないのだ。何度も順番を入れ替え、構成を練り上げていく。この苦しい編集作業に2年もかかる。

当然、作品として費用を回収しなければ、次回の制作活動はおろか生活もできない。しかし、この世界、1万人の入場者がいればヒットだという。1人2000円払っても2000万円。映画館、配給会社の取り分と制作費や宣伝費を引けば、1万人の入場者では100万円と少ししか手元に残らない。だから、どうやって作品をアピールするかが大切になる。ホームページ、マスコミ向けの資料、ポスター、予告編などの作成や、国際映画祭でのパフォーマンス、あらゆる手を打っていく。

日本人の制作者は英語のホームページをあまり作らないという。クールジャパンという国策も、制作者自身に世界に売り込む気がなければ大きな成果は見込めない。今後、著者のように、外国でも普通に活動する人たちがどんどん出てくると思うと、とても頼もしく感じた。

著者
そうだ・かずひろ
映画作家。1970年生まれ。東京大学文学部、米スクール・オブ・ビジュアルアーツ映画学科を卒業。台本やナレーション、BGMを廃した「観察映画」を提唱・実践。『選挙』『精神』『Peace』『演劇1・2』などの作品で受賞多数。1993年からニューヨーク在住。

 

江口 匡太 中央大学商学部教授

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えぐち きょうた

中央大学商学部教授

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