JINS、ウェアラブル端末が示唆する「新事業」 眼鏡屋と呼べなくなる日が来るかもしれない

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こうした中、ミーム普及のカギを握るのは2つの要素だ。一つは、価格。製品発表時からはたして「JINSレベル」の価格になるかどうかが注目されていたが、3万9000円というのは、たとえばグーグルグラスの約15万円や、ソニーの「スマートアイグラス(開発者向けのみ)」の10万円に比べれば値頃感はある。

ただし、それが高いのか安いのか、見極めるにも重要なのが、もう一つの要素である連動アプリ(あるいは眼鏡そのものの機能)だろう。たとえば、現時点で測定できる範囲のものであれば、3万9000円は安いとは言えないのではないか。

どれだけ周りを巻き込めるか

ジェイアイエヌもそれを心得ているからこそ、開発者キットを提供しているのであり、今後はスポーツやヘルスケアだけでなく、たとえば先制医療の分野などでも応用されることに期待を抱いている。「ミームは研究すればするほど可能性がある」(田中社長)としており、今後は自社だけでなく第三者も幅広く巻き込むことでより独創的かつニーズの高いアプリや機能を開発することが重要になるだろう。

有能なアプリが出てくれば事業範囲も広がる。当面は、眼鏡というハードのみの販売を考えているが、将来的には「アプリ課金も考えられる。そうなれば、従来とは違うビジネスモデルを展開できる可能性もある」(田中社長)。これとは別に、ミームを使ってBtoB(企業向け)の分野で事業を広げることも考えられる。

ジェイアイエヌにとって、ミームの成否は同社の中長期的な業績を占う上でも重要な製品だ。JINS PCでは従来眼鏡を利用したことのない消費者層を開拓して大きく成長した同社だが、近年はこの反動から業績が低迷。10月13日に発表した2015年8月期の営業利益は、前年同期20%増の35億円となったが、全盛期の62億円(2013年8月期)からみると、まだざっくり半分程度だ。

今年4月には膨大な数になっていた商品数を見直すと同時に、ヒット商品依存度の高い業績構造から脱却すべく、よりベーシックな商品に主軸を置いた商品展開を開始。契約社員を正社員として大量に採用するなど販売スタッフの接客力底上げを図るなどして、これまで「不得意」だった中高年顧客の取り込みに力を入れるようになった。

それでも、日本国内では押し寄せる人口減の波は避けられない。中期的には、高齢者が増えることで眼鏡人口が増えることが期待できるかもしれないが、長い目で見た際にはやはり、これまで眼鏡を使ったことのない人や外国人ユーザーの獲得は必須。加えて、アプリやサービスなど新たな収入源が確保できれば、従来の眼鏡企業とは違う生き残り方ができるだろう。

「あまり大きいことを言うとビッグマウスと言われるが、世界一を目指したい」(田中社長)――。ミームは果たして、業界の常識を覆す商品に発展するだろうか。

(撮影:尾形文繁)

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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