僕の芸大受験経験は、だから今でも役に立つ 受験のときに編み出した「成長への最短距離」

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それは、絵の予備校に行ったときも一緒だった。そこに来ている人たちを観察し、彼らの技術はもちろん、人間性や経歴も可能な限り知ろうとした。そうすることで、「絵がうまくなるための方法論」を見つけようとしたのだ。

それは、勉強に関しても同じだった。ぼくは、勉強を始める前に「勉強法」の本を片っ端から読んでいった。その中から、自分に合っていそうなものをどんどんと試していった。

やがて、月日はあっという間に過ぎ、受験まで残り半年となった。その時点で、ぼくの絵は合格ラインに程遠く、勉強の点数も絶望的だった。その頃、ぼくは誰からも芸大に現役では受からないだろうと思われていた。

突き詰めた先のブレイクスルー

それでも、ぼくはあきらめなかった。この頃になっても、ぼくは相変わらず絵のうまくなり方と勉強法を探していたのだ。するとそこで、いくつかのブレイクスルーが起こった。

まず、絵の方では「直線」を描くことに苦労していたのだが、それがいきなり描けるようになった。なぜかというと、「定規で描けばいい」と思いついたからだ。直線は、定規を使うと簡単に描ける。しかし、そこには一つの短所があった。それは、定規で引いた線は固すぎて、絵としての魅力が半減することだ。

そこでぼくは、定規で引いた線を下描きとし、その上からフリーハンドで描く、という方法を思いついた。そうすると、真っ直ぐな線を引きつつ、フリーハンドの面白さを出すこともできるのだ。

また、勉強では英語や数学を苦手としていたのだが、共通一次は四択形式なので、試しに「過去問」をくり返し解いてみた。すると、やがて四択という問題形式に慣れ、内容にかかわらず、正解がどれかを当てられるようになった。そうして、成績がどんどんと伸びていったのだ。

そんなふうに、ぼくは受験を通じて絵や勉強の能力ではなく、絵のうまくなり方や勉強法といった「問題解決方法」を学んでいった。あるいは、人間が能力を身につけたり、成長したりする方法を学んでいった。そうして、なんとか芸大に現役で合格することができたのだ。

さらに、そこで身につけた「成長の仕方」は、やがてぼくの人生を大いに助けることとなる。なぜなら、それらはとてつもなく「汎用性」が高かったからだ。

以降、ぼくが何かの能力を伸ばしたいとき、それらの知識や経験が大いに生かされた。受験のときに編み出した成長の仕方を用いて、他の分野の能力も伸ばしていったのだ。その意味で、ぼくにとって受験は大きく役に立ったのだった。

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岩崎 夏海 作家

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いわさき なつみ / Natsumi Iwasaki

1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著『部屋を活かせば人生が変わる』(累計3万部)などがある。

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