親鸞が生きた時代はいわば日本のルネサンス--『親鸞 激動篇』を書いた五木寛之氏(作家)に聞く

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──今回の「激動篇」は親鸞中年期。次に老年期の親鸞を書いて3部作は完結ですか。

前作が大体30歳ぐらいまで、今回が30歳から60歳。親鸞は90歳で亡くなったから、確かに60歳から90歳まで、京都における親鸞というテーマはある。

一つの小説は、作家が書きたいというだけでは生まれない。それを掲載する舞台や出版する出版社が必要だし、書く人間の精神的なエネルギー、健康状態という問題もある。

新聞連載ともなれば、一日として休めない。今回は地方紙44紙、うちブロック紙3紙に連載した。北海道新聞から琉球新報まで、購読者数は1600万といわれ、新聞は家族などで読むから推定2000万読者、新聞史上初めてのことと聞いている。

今はライトノベルの全盛期だ。そういう時代に親鸞という、字画にしても重苦しいものが、少なくとも連載がまず完結し、単行本になって書店に並んだことは奇跡に近い。

──オールドメディア健在なりといえますか。

出版界の未来はもう見えている。平安時代の王朝と同じように斜陽化しつつある。それも、時代を動かす信頼感の問題として。出版文化も活字文化もその重さであえいでいる。これからは、電子出版がどうだとかいって新しく伸びていく方向ばかりに目を向けるのではなくて、きちんと坂を下りていかなければならない。下降していく時代の中で、見事なしんがり戦を闘っていきたい。

(聞き手・本誌:塚田紀史 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済2012年3月17日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

いつき・ひろゆき
1932年福岡県生まれ。戦後朝鮮半島より引き揚げた後、早稲田大学文学部ロシア文学科中退。66年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、67年『蒼ざめた馬を見よ』で第56回直木賞、76年『青春の門』で吉川英治文学賞など受賞多数。2010年前作の『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。

『親鸞 激動篇 上・下』 講談社 各1575円 上298ページ、下326ページ


親鸞 激動篇 上
  

親鸞 激動篇 下
  

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