2012年日本の事業会社の信用力見通しは、引き続き弱含み<下>《ムーディーズの業界分析》

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電力

 電力業界と政府は、福島第一原子力発電所の事故処理を進めるための最適な方法を模索しており、12年は同業界が話題の中心を占めるとみられる。電力業界が直面する主要な問題は、補償と事故収束のための資金調達、ならびに今後の日本の原子力発電政策である。

東京電力(発行体格付けB1)の格付け見通しは「ネガティブ」、沖縄電力(Aa3)の格付け見通しは「安定的」、他の電力会社7社の格付け(電源開発:Aa3、地域電力会社6社[北海道電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、九州電力]はすべてA1)は、引き下げ方向で見直しを継続している。

東京電力は11年の3月から4月にかけて、国内メガバンク3行、政府系銀行、および他の大手銀行から総額約1.9兆円の緊急融資を受けた。政府は、新たに設立された原子力損害賠償支援機構に対し、東京電力による福島第一原子力発電所事故の被害者への補償金支払いを支援することを承認している。東京電力は、社債の償還予定を考慮しても、現時点で十分な流動性を維持している。

しかし、13年3月期には償還予定の社債が増加し、銀行からの追加支援が必要になるとみられる。銀行が新規融資を行うためには、東京電力の収益性と財務状況が許容可能な水準まで回復することが不可欠である。

東京電力が収益性と財務力を立て直すためには、
(1)電力料金値上げ等の対策による売上高の適切な水準への引き上げ、
(2)大規模なコスト削減や原発再稼働等による利益の改善、
(3)原子力損害賠償支援機構による資本注入を通した財務レバレッジの引き下げ、
等が必要である。 3月末までに提出予定の総合特別事業計画の政府による承認も、上述した3つの要件を達成するために不可欠である。ムーディーズは、この計画の進捗状況を注視していく。

沖縄電力以外の他の電力会社は、原発稼働停止に伴う将来の収益性の不確実性を要因として、現状では社債を発行できていない(12年2月20日現在)。これらの電力会社は現在、社債償還に伴う資金を銀行借り入れに依存している。業界の財務状況を安定させるためには、この資金調達にかかわるストレスを解消する必要がある。

電力会社7社の引き下げ方向での格付け見直しにおいて、ムーディーズは、
(1)原発が再稼働した場合、いつ頃、どの程度まで収益性の回復が見込めるか、
(2)原子力損害賠償支援機構に支払う負担金が財務に与える影響、
(3)社債発行の再開時期、
に着目する。また、今夏に発表予定の政府の新エネルギー戦略が、各社の信用力に与える影響にも注目している。

以上

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