ホークスの圧倒的強さを支える「3軍」の正体 選手が自然と育つ仕組みがそこにあった

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今季のソフトバンクは特に投手陣の層が厚かったため、2軍の先発ローテーションは、岩嵜翔、千賀滉大、帆足和幸、東浜巨、山田大樹といった、他球団なら十分1軍戦力になりうる実力派を中心に回していた。もし3軍がなければ、20歳前後の若手がこの準・1軍ローテーションに割って入るのは至難の業。無理に若手に出番を与えると、今度は準・1軍のなかで調整が不足する選手が出てくる。ソフトバンク以外の球団は少なからず、こうしたジレンマを抱えている。

つねに2軍で準・1軍クラスが控えていることは、1軍の戦力維持につながり、また1軍選手への危機感をあおる役割も果たす。今季序盤は外国人枠の問題もあって2軍暮らしが続いていたバンデンハークは、6月から1軍に昇格すると9勝0敗、防御率2.52という素晴らしい成績で優勝に大きく貢献した。

補強だけに頼らない姿勢がファンの心を動かす

3軍制度を敷いたソフトバンクがこれほどの結果を残しているなか、「なぜ他球団も3軍を保持しないのか」という疑問も 湧いてくる。だが、実際には人件費や練習場所の確保などコスト面の問題が多く、資金が潤沢なソフトバンクだから取れる体制とも言える。また、小川3軍監督は「故障者が多いと試合が組みにくい」と、3軍の抱える課題を語った。

それでも、補強に頼るだけでなく、自前でスター選手を育成していこうという姿勢は着実にチームを強くし、多くのファンの心を動かしている。それは今季、パ・リーグのチームとして初めて公式戦観客動員数が250万人を突破した人気が証明している。

来春からはファームの本拠地を雁ノ巣から筑後市の「HAWKSベースボールパーク筑後」に移し、2軍、3軍の環境はさらに充実することだろう。ホークスの黄金時代は3軍制度が支えていた――。後の世でそう総括されそうなほど、福岡ソフトバンクホークスという組織は成熟期を迎えつつある。

菊地 高弘 編集・ライター

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きくち たかひろ / Takahiro Kikuchi

1982年生まれ。雑誌『野球太郎』(廣済堂出版)の編集部員を経て、2015年4月よりフリーの編集兼ライターに。野球部員の生態を分析する「野球部研究家」としても活動しつつ、さまざまな媒体で選手視点からの記事を寄稿している。著書に、あるある本の元祖『野球部あるある』(「菊地選手」名義/漫画 クロマツテツロウ氏、新装版が集英社から発売中)がある。Twitterアカウント:@kikuchiplayer

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