米国では部下を褒めずに叱れば管理職失格 あなたは異文化を理解していますか

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著者は、ビジネスの場で文化的な差異が特に大きな影響をもつ8つの指標を挙げている。これらの指標におけるポジションの違いが、誤解やミスコミュニケーションを生み出す主な原因となっているのだ。

1.コミュニケーション:ローコンテクスト vs ハイコンテクスト
2.評価(ネガティブフィードバック):直接的 vs 間接的
3.説得:原理優先 vs 応用優先
4.リード:平等主義 vs 階層主義
5.決断:合意志向 vs トップダウン式
6.信頼:タスクベース vs 関係ベース
7.見解の相違:対立型 vs 対立回避型
8.スケジューリング:直接的な時間 vs 柔軟な時間

「決断」に見る、アメリカと日本の違い

もうひとつよい例を挙げよう。日本企業は4の「リード」指標において、階層主義的な文化を持っている。数千人の従業員を持つ大企業において、CEOと一般社員がファーストネームで呼び合い、気軽にランチに行くような文化を持つアメリカは極めて平等主義だが、上司を役職で呼ぶような日本企業は反対に階層主義的である。

この一方で、アメリカ企業は5の「決断」の指標においてはトップダウン式である。スティーブ・ジョブスを例に挙げるまでもなく、上司の決断は絶対であり、決まったことにはつべこべ反論せずすぐに従わなければならない。ところは日本企業は「決断」においては合意が何よりも重要視され、リーダーが独断で決めて素早く行動に移す、という方式が機能しにくい。

この「リード」と「決断」の2つの指標において、まさに日本的な文化を体現しているのが「稟議」だ。稟議とは「多重階層の上から下まで、幅広くみんな合意しましたよ」という確認をとるプロセスである。非常に長い時間を要し、反対意見が途中で出ることもない。これが世界的には極めて特異な仕組みであるということは、知っておいて損はないだろう。

本書の著者はアメリカ人だが、この本は決して自国文化の優越性を説くことが主旨ではない。気づけばマイクロソフト、グーグル、ペプシコ、マスターカードなど、アメリカを代表する企業の多くでインド人がCEOを務めている。多様性の高いアメリカにおいて、異文化を敏感に察知して空気を読む能力を身につけなければならない、というビジネスパーソンの謙虚な気持ちに応えるのが本書だ。著者はむしろ、経済発展の中心が中国やインドなどに移って行くに従い、今まで以上に(アメリカ人を含む)ビジネスパーソンは異文化を理解しなければならないと主張している。

なお、読者にとって身近に感じられるように敢えてアメリカと日本の差異ばかりを取り上げたが、本書の中では実に様々な国の組み合わせが紹介されており、なぜそれらの国の人々の間で誤解が生じるのかが詳細に分析されている。イスラエル、ドイツ、オランダ、フランス、メキシコ、中国、イギリス、ナイジェリア、韓国など、著者はよくここまで豊富な実体験を持っているものだと感心してしまうだろう。

HONZの代表である成毛眞は、かつて『日本人の9割に英語はいらない』という本を著している。その心は、9割の日本人にとっては英語よりも幅広い教養を得ることの方が重要であるという点がひとつ。もうひとつは、残りの1割の日本人は英語が必須であり、もっと英語力を高めなければならない、という点だ。

英語力だけでは、グローバル化の時代を生き残れない

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特に後者については強調しておきたい。本来は非常にハイレベルな英語力が求められるポジションに就いているにも関わらず、その英語力がお粗末な日本人ビジネスマンというのは信じられないくらい多いのだ。だがその英語力と同じくらい、本書のタイトルである「異文化理解力」も重要だ。

英語がペラペラに話せる帰国子女が、日本企業に入って「空気が読めない」「仕事ができない」と阻害されるケースが多いのも、帰国子女とそれを受け入れる側の双方に異文化理解力が足りていないからだと言える。

英語力だけでは、グローバル化の時代を生き残るには足りない。英語については音声通訳などの技術がいつか補ってくれるかも知れないが、異文化理解力はそうはいかないのだ。だからこそ、単なる英語よりもこの本の方が、多くの人にとって役に立つだろう。

佐藤 瑛人 HONZ

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さとう あきと / Akito Sato
米系広告テクノロジー企業に勤務し、シリコンバレー、香港、東京を行ったり来たりする日々。20代前半は主にミュージシャン/作曲家として活動し、海外でのライブ経験もあり。日本人として外国人とどう効率的に協力・競争するか、が人生のテーマ。読書以外の趣味は一眼レフと海外旅行。テレビは12歳から見ていない。
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